「俺の父は会社を経営していて、俺は人より少しだけ裕福な家庭で育ったんだ」と、高槻は言った。
私立の一貫校に通わせてもらい、好きなことを好きなだけやらせてもらえる生活だった。
が、高槻が19になったある日、父の会社は事業に失敗し、多額の借金を抱える羽目になった。
二代目社長の父は右往左往するだけで何もできず、お嬢様育ちの母はついにショックで倒れてしまった。
「そんな時に現れたのが、黒川だった」
黒川は、高槻の父の古い友人だったらしい。
「俺が融資してやるよ」と言われた父はその言葉に飛び付き、言われるがままにしているうちに、気付けば会社を乗っ取られていた。
このままでは担保にしていた自宅まで奪われてしまうと泣く両親に、黒川はそれならばと交換条件を出したそうだ。
「だったらお前らの息子を俺に売れよ」と。
「黒川は当時、中国とのパイプを作ろうとしていた。それで俺は適任だったんだな。経済学部に通っていたし、中国語と英語ができたから」
高槻には選択の余地などなかった。
両親を守るためには、自分が憎き黒川の手足となるしかなかったのだ。
「それからは、色んなことをやったよ。秘書なんて名ばかりで、俺は黒川に都合のいい駒なんだよ。汚い仕事は全部俺がしてきた。人を騙したり、傷付けたり、犯罪もだ。あみには言えないようなこと、いっぱいしてきたし、今もしてる」
そう言う高槻は、遠い目をする。



