『もういい』と言われたのだから当然なのに。

ひどく落胆した瞬間、背後からドアを掴む手が伸びてきた。



「バカだな。こんな手に引っ掛かるなよ」


振り向いたと同時に高槻に突き飛ばされて、室内に倒れた。


暗い部屋で、高槻に見下ろされる。

痛いよりも、悲しかった。



「ごめんなさい」


震える声で彩は言う。

しかし高槻は目を細めて見せるだけ。



「その謝罪は何?」

「ごめんなさい」

「ごめんじゃわからない」


それでもバカみたいに「ごめんなさい」とだけ繰り返す彩に、高槻は怒りを込めてガンッと壁を殴った。



「何でだよ! どうしてよりにもよって、黒川なんかと!」


大声を出した高槻は、そして悔しそうに顔を覆う。

そのまま崩れるように膝をついた。


ふたりの間で揺れる空気が冷たい。



どれほどの沈黙のあとか、息を吐いた高槻は、彩を見た。



「自分の目で見たものが信じられなかった。嘘だと思いたかった。だからお前のこと罵倒してやるつもりでここにきたのに、やっぱり顔見たらダメだな」


高槻は、そして手を伸ばして、彩の髪を梳く。



「ちょっと会わなかったうちに、何でこんな痩せてんの」