寝たのか寝ていないのかもわからない。
このままここに座っていたら死ねるだろうか、なんてぼうっと思っていた時、ピンポーン、とチャイムが鳴った。
ここに訪ねてくるのは店長くらいしかいない。
どうせ無断欠勤したことを咎められるだけだなと思い、彩は無視していたのだが、もう一度鳴ったチャイムの音と共に、店長とは別の人の声がした。
「あみ。開けろよ。中にいるんだろ」
はっきりと、その声が耳に届いた。
高槻だった。
彩は急に身がすくみ、本能的に後ずさろうとしたのだけれど、その拍子にテーブルに腕をぶつけてしまい、ガタッと物音を立ててしまう。
「なぁ、聞いてんだろ。それでも無視してるってことは、俺とはもう話すつもりもないって意思表示?」
そうじゃない。
けれど、合わせる顔がないのも事実だ。
やっぱり彩は何も答えられないままで、少しの間を置いて、ドアの向こうで高槻はため息混じりの声を出した。
「わかった。もういいよ。それがお前の答えなんだな」
そして高槻は、「じゃあな」と言う。
そのまま声は聞こえなくなった。
もう二度と高槻さんと会えない?
合わせる顔もないはずなのに、なのに彩は気付けばよたよたと玄関に向かい、鍵を開けてノブに手を掛けていた。
「待って、高槻さんっ」
けれど、廊下の先にはもう誰もいなかった。



