高槻が旅立って3日。
死ぬほど長い時間のように思えるのに、まだ3日しか経っていないという現実が、彩には途方もなく感じられた。
「彩さん。黒川さまが」
ボーイに呼ばれ、思わず「え?」と声が出た。
高槻は秘書なのだから、当然、黒川と一緒に海外に行ったとばかり思っていたのだけれど。
しかしそんなことは言えないので、彩はいつも通りの笑みを作り、黒川の卓に向かう。
「いらっしゃいませ、黒川さま。今日は珍しくおひとりなんですね」
当たり障りないことを言ったつもりだった。
が、なぜか黒川は不機嫌に返す。
「俺がひとりでくるとダメなのか」
いつもは上機嫌な黒川が、怒っているなんて珍しい。
なだめ役の高槻もいないため、どうしたものかと彩は思う。
「何か嫌なことでもあったんですか? お酒が飲みたい気分なら、お付き合いしますよ」
黒川のグラスに酒を注ぐ。
とりあえず飲ませておけば機嫌も直るだろうと軽く考えていたが、しかし「お前の所為だよ」と低く言われ、彩は驚くままに顔を向けた。
「クソアマが、見た目以外には何の取り柄もないくせに、いつまでもすました顔でお高く気取ってんじゃねぇよ。俺の金で飼われてんだろ? なら、機嫌の取り方くらいわかるだろうが」
そして置かれたホテルのルームキー。
「いい加減、俺の女になれよ」
いつもの酔っ払いの戯言なんかじゃない、本気の目。
何か言わなくてはと思うのに、冗談で交わすこともできない目力に見据えられ、ぞっとした。
黒川と、寝ろということ。



