アフターをキャンセルし、一目散に帰宅して自宅のドアを開けると、高槻は疲れていたのか、ソファで目を閉じていた。
生活する時間帯が違うのに、無理をさせていることに心が痛くなる。
「高槻さん。ここで寝てたら風邪引くよ?」
揺すり起こそうとした瞬間、手を引かれ、「あっ」と声が出た時には、座っている高槻の上に乗ったような状態になっていた。
目を開けた高槻は、意地悪い顔で笑っている。
「もう! ほんとは起きてたの!?」
「寝てたよ。今ドアの音で起きたけど」
そして高槻は、「おかえり、あみ」と言った。
くすぐったくて、甘くて、そして果てしなく幸せだった。
「この部屋ってほんと静かだよな。おかげで眠くなるばかりだよ。やっぱり高級マンションの高層階だと、外の音とか聞こえないもんなんだなって」
彩の部屋は、最上階の15階。
壁も厚く生活音すら響かないため、隣に人が住んでいるのかどうかも知らない。
「お店の寮から引っ越す時に店長に相談したら、ここ見つけてきてくれて。高層階の方が防犯にいいとか何とかで」
「そんなことまで店長に相談するもんなのか?」
「あ、じゃなくて、店長とは昔からの知り合いで、私にとってはお兄ちゃんみたいなものだから。私は別に住むところなんてどこでもよかったんだけどね」
生活するのなんて、最低限のものだけあればあとは必要ない。
だからただ広いだけの部屋を、彩は完全に持て余していた。



