黒川は、最低でも週1回は、必ず店にやってくる。
今日は仕事の関係者だという人たちを数人引き連れ、いつもに増して上機嫌なご様子だ。
彩は高槻に気付いて、でも平常心を保つために目を逸らす。
「ほら、お前ら、よく見ろ、俺の彩を。どうだ。そこらの女がゴミみたいに見えるだろ? この前会ったしょんべん臭いアイドルなんか目じゃないだろう」
他の人たちやヘルプの子たちの引き攣った顔になんて気付きもしない黒川は、見せびらかすように彩を自慢する。
記憶の中にある、母と同じ顔をした自分の顔が大嫌いだった。
だけど、それでしか稼げないのだから、皮肉なものだなと思う。
さんざん騒いで、やっと黒川は帰る気になったようだった。
一緒に立ち上がった高槻は、ハンカチを落とした。
彩は何食わぬ顔でポーチから自宅マンションの鍵をこっそりと取り出し、拾い上げたハンカチの間にそれを忍ばせる。
「落としましたよ、高槻さん」
「あぁ、気付きませんでした。ありがとうございます」
高槻も、何食わぬ顔でハンカチを受け取った。
「おい、彩。何をやってるんだ。外まで見送れ」
黒川に呼ばれ、肩を抱かれながらも、彩はにやけそうな口元を押さえた。



