営業前のミーティングで、店長が一列に並んだキャストを前に、売上がどうのと話しているのを聞き流しながら、彩はあくびを噛み殺した。
退屈すぎて、早く終わらないかな、なんて思っていたら、隣にいたセナが小声で声を掛けてきた。
「ねぇ、彩さん」
声を掛けられた彩は、もう条件反射みたいに笑みを作り、「どうしたの?」と、顔を向ける。
「彩さん、また今月もナンバーワンでしたね。すごいですよね、黒川さんって。何してる人なんですか?」
「さぁ? 貿易だか何だかって言ってたけど、お客さまのプライベートなことって無理して聞けないから、あんまり詳しくはわからないなぁ」
それももちろんだが、何より彩は、黒川にもほかの客にも、まるで興味がないため、いちいち聞かないだけだった。
しかしセナは、さらに声を潜めて言った。
「あたし、聞いちゃったんですよね、黒川さんの悪い噂」
黒川の、悪い噂?
どうせ聞いたところで楽しい話じゃないだろうし、それ以前にただの噂にいちいち振りまわされるなんてバカらしいとは思ったが、しかし言いたくてうずうずしているらしいセナに、仕方がないので「なあに?」と聞いてやった。
セナはくりくりとした目を輝かせる。



