安堵の息を吐いた僕を見て、彼女は、僕に声をかけた。

「大丈夫?」

笑顔で手を差し伸べてくれる彼女は、女神のようだった。

「あ、ありがとう……」

「ふっ、いいんだよ。でも、あんたも言い返しなさいよ。あんな奴らなんて、ぶっ飛ばしちゃえ〜」

あははっ、と明るい声で笑う彼女。

その瞬間、僕は恋に落ちたんだと思う。

ー ー ー ー ー ー ー ー ー

今でも、僕の好きな人は"あの子"だ。

名前も、何も知らない相手だけど、あの時惹かれたんだ。

またいつか会えるといいな…。

「ねえ、陽介。陽介ったら」

美樹に肩を叩かれて、気付く。

「ん、なんだ」

「も〜!何考えてたの〜」

美樹はぷくっ、と頬を膨らませた。

こういう可愛らしい仕草が、ファンに人気なんだなぁと思う。

まあ、美樹は何を考えてるのか全く分からないけど。

「好きな人のこと」

何も考えずに素直に言った。

「え?」

美樹の顔が固まった。

「美樹、どした」

僕が聞くと、美樹は気まずさを隠すように笑った。

「あ、あはは。何でもないよ〜!」

こういうところが分かんないんだよなあ。

「ていうか、陽介の好きな人ってだあれ?」

美樹がちょこん、と首を傾げた。

ここで素直に言うと、また美樹は変な反応をすると予想し、僕は、

「秘密だよ」

と言った。