「…う。」
「レノ!起きた!良かった…」
目を開けた瞬間、リカちゃんに勢いよく抱きつかれる。私はまた最後に目を覚ましたようだ。一体、何が起きたんだろう。
私が「ごめん。」と起き上がると、右手の傍に綿が飛び出たクマの人形が落ちているのに気付いた。…私の作った人形だ。他の二人も同じような状態の人形を握っている。
「私達は平気だけどレノはどこも痛くない?」
そっか。途中で道が崩れて、下に落ちたんだ。
私は「大丈夫。」と頷いた。それにしても、道が崩れたってことは、あの道は不正解だったのにどうして私達は元の場所にいるんだろう。
「…これ、身代わりの人形だったのかな。」
リカちゃんが悲しそうな顔で人形を見つめた。縫い直そうにも裁縫道具は無くなっている。目の前にはただ、残った二本の道があるだけ。一度目は人形のおかげで助かったみたいだけど、もう二度目は期待できない。
「私はこっちの道に進むわ。」
突然、チサちゃんが道の前に立って言った。
「私、この道に正解はないと思うの。きっと頭よりも、試されているのは行動力よ。」
確かに、それは一理ある。ここは成人の箱であって、知識を試す場所じゃないし、危険があったとも聞いたことは無い。けれど、記憶が消せるということは、私達のことを誰かに忘れさせることが出来るということ。私達に何かあっても誰にも気付いてもらえないかもしれない。それには、きっとチサちゃんも気付いている。足が震えているのがその証拠だった。
「じゃあ、あたしも行くよ。」
リカちゃんがチサちゃん右手を取った。私は左手を。「私も。」とチサちゃんの目を見た。
私達は手を繋いで進む事にした。今度は誰も喋らない。正直、この道が安全だと思えた訳じゃないけど、三人で一緒なら安心だと感じられる。
しかし、そんな気持ちを裏切るように足下で大きな音がした。再び嫌な浮遊感に襲われる。ただ、さっきとは違って私は二人の手を掴んでいた。三人、輪になって落ちていく。目線の端で、もう一方の道が崩れていくのが見える。
正解はないと思うの
チサちゃんの言葉を思い出した。落ちている間、怖くてあまり覚えてないけど、手を離さなかった事だけは確かだった。きっと、大丈夫。