「はい。どうぞ」

スーパーで林檎を差し出してくれた時と、同じ口調で。

目の前のローテーブルには、湯気の立つマグカップ。

「オレも、勝手に借りちゃいました」

カップを少し、持ち上げて見せた。

「どうぞ、どうぞ。冷めちゃいますよ」

言われて、目礼してカップに手を伸ばした。

伸ばした、右手をふいに掴まれる。

その温度はやっぱりぬくくて。

静かに私の右手からカップを取り上げた、林檎のひと。

そこで初めて、手が震えていることに気が付いた。

「…大丈夫、じゃないよね」

そりゃあ、当たり前だ。

うつむく私を覗き込む。