秋の中頃の海は、肌寒い風と、どこか懐かしい潮のかおりに満ちている

凛と澄んだ空気が、肺をいっぱいにする。

隣には、静かに海を眺める律さん。

「律さん」

ひとこと呼びかけた声は、海上に吸い込まれる気がした。

「はい」

私の方に向けられたその目が嬉しいし。

「結婚式と、籍を入れる日にち、なんですけど」

「はい」

穏やかな声音に、勇気を貰って。

喋りだすために吸った息には、なぜかやわらかな潮風がかおった。

大丈夫。

私の提案を、律さんは叶えてくれるはず。