「詩さん」

黒い記憶に呑まれそうになる寸前、引っ張り上げてくれたのは、律さんの柔らかな声。

隣でただ、私のてのひらを握ってくれていた。

「大丈夫?」

そのひとことが、私を明るい方へ導いてくれる。

「…好きじゃなかった雨が、あの日、ドラッグストアの前で律さんとのつながりを作ってくれて」

「うん」

続きを急かしたりしない、律さんの優しさ。

その声音の柔らかさが、安心感をもたらせてくれる。

「律さんと雨の日を過ごしたら、虹にも出会えるし、楽しいことが増えて」 

だから私、律さんと過ごす雨の日が、結構、好きです。