No rain,No rainbow

「…おっ前…あとで覚えとけよ」

低い声で呟いた藤城さんは、そのまま腰を折って、あんずさんに素早くキスをした。

美男美女のキスは、ドラマや映画のワンシーンのようで、なんだか現実味がない。

「ほらほら、あなたは。人のキスをガン見するのをやめなさい」

律さんが少し笑いながら、私の両目を手のひらで覆った。

「そろそろお暇させてもらいます」

律さんが藤城さんに話しかける。

「なんか、追い出すみたいで、すみません」

苦笑いの藤城さん。

「いえいえ、ゆっくり続きをなさってください」

そんな律さんのからかい口調は、昔からの友だち同士のようで、こちらまで嬉しくなる。

「はい。ゆっくりさせていただきます」

丁寧すぎる口調の藤城さんがまた、可笑しい。