「イヤならいいんです。お節介でしたね。すみません」

早口で告げて、歩き出した私の右手首を、

「冗談ですよ。冗談。ぜひ。お願いします」

素早く掴んだ、左手。

その温度はやはり、優しくぬくい。

どうしてこんなにも、違うんだろう。

きっと男のひとの体温は、2つだけ。

熱いかぬくいか、なんだと思う。

そうして私の今までの人生で知っていたのは、恐ろしく熱い手のひら、だけ。

その事実に、思わず泣きそうになる。

あぁ、今がどしゃ降りの雨で良かった。

きっと私のこの涙も、一緒に下水に流してくれるから。