アパートの渡り廊下を、バタバタと掛けてくる足音がして、今、別れたばかりの律さんの姿が、台所の横の摺りガラス映った。

お互いに、お皿洗いだとか掃除が溜まっているから、終わらせてからまた会おうと約束していたのに。

不思議に思いながら、チャイムが鳴る前に玄関のドアを開けたら、案の定さっき別れたばかりの律さんで。

「こら。まったく、あなたは。誰か確認してからドアを開けなさい。オレじゃなかったら、どうするの?現にあなた、前に確認しないでドアを開けて、ひどい目にあってるでしょう?」

なんて、私の頰を軽くつねる、律さん。

「でも、摺りガラスに律さんの姿が映ってたから…」

「オレによく似たひとだったらどうするの?」

少し眉間にシワをよせる律さんも、可愛らしい。

"可愛らしい"なんて言ったらまた、30過ぎの男に向かってあなたは…なんて、言われちゃうかな?

「律さんの姿は、たとえ影でも見間違えたり、しないから…」

「…まったく、あなたってひとは…」

「……」