数分ののち。

「…ありがとう、ございます」

抱きつく私を、静かに離した律さん。

その目にはもう、涙は浮かんではいないけれど、まだ哀しい色が残っている。

「…あなたの漠然とした不安は、オレのせい、です」

視線を下に向けたあと、迷いを振り切るように真っ直ぐに、私を見つめた。

「あなたに、話しておきたいことがあるんです。オレはあなたが好きです。あの日、警察署で23時前に電話を掛けに行って、戻ってきたオレの目を見て、「目が赤いけど、大丈夫ですか?」って聞いてくれたでしょう?」

あの日からずっと、あなたに話したいと思っていたんです。

オレのちいさな変化に気が付いてくれたのは、あなたがはじめてだったから。