…と、ふいに影が落ちてきて、手元が暗くなる。

不思議に思いながら、顔を上げかけた瞬間。

「あんまり可愛いこと言うと、知りませんよ?」

防犯カメラがなかったら、キス、してるとこです。

私の耳元に口元を近づけて、後ろから頬と頬が触れそうな距離で囁く律さんと目があった。

覚えておいてください、ね?

息が触れる距離の囁きは、鼓膜を震わす。

甘い声と甘い言葉。

腰砕けになりそうな直前で、何とか思いとどまる。

ゆっくり振り向いた時にはもう、歩き出している律さん。

1度振り向いて、

あ と で ね

声無しの口の動きと、笑顔を残して店を出ていった。