あやかし戦記 葛藤の炎

ツヤの優しい声に、鬼という妖なのに温かい体に、イヅナの心が大きく揺さぶられて、消えてしまっていた炎がまた燃え始める。イヅナは唇を震わせ、泣かないように意識しながら頷くことしかできなかった。

「イヅナ、家に帰ろう」

ツヤに抱き締められているイヅナに、レオナードとヴィンセントが声をかける。エーデルシュタイン家が車で送ってくれるようで、遠くに黒い高級車が見える。

「こういう時こそ、ゆっくり休んだ方がいいわ」

チェルシーもそう言ってくれたが、イヅナはどうしても先に行きたいところがあったため、首を横に振る。

「レオナードとヴィンセントは、先に帰ってて。私、どうしても行かなきゃいけないところがあるの」

そう言い、イヅナは荷物を持ったまま走っていく。そのままバスに乗り込み、椅子に座った。

バスに揺られること一時間弱、イヅナがやって来たのはギルベルトの屋敷だ。ギルベルトに呼び出される以外で来るのは初めてで、少し緊張しながら門をくぐる。相変わらず立派な屋敷が目の前にはあった。