あやかし戦記 葛藤の炎

ヴィンセントの言葉にイヅナの瞳が揺れる。それは、ニコラスを殺すということだ。イヅナの望んだ選択肢ではない。

イヅナが口を開こうとすると、ヴィンセントに強い力で肩を掴まれる。肩を掴むその手は震えていた。

「イヅナの言いたいことはよくわかる。これがイヅナにとって最悪の選択だっていうことも、痛いほどわかる。でも、考えてほしいんだ。僕はもう矢がない。レオナードやイヅナだって、体力がいつまでもあるわけじゃない。僕たち全員が動けなくなったら、あの子たちは全員殺されてしまう。……もう、これしか選択肢がないんだ」

ソフィアたちは、レオナードとニコラスがぶつかり合っていくのをまだ見つめている。ニコラスの戦うスピードは何も変わっていない。しかし、レオナードはもう動くことがかなり辛そうだ。汗が吹き出し、地面に落ちている。

「今回は、アレス騎士団の一員として正しい選択を取ろう」

ヴィンセントにそう言われた時、イヅナの目の前は真っ暗に染まっていきそうになった。薙刀を持つ手が震え、心の中にある炎が大きくなっていく。その感情の炎は、まるでこの身を焦がしてしまうかのように燃え上がっていた。