あやかし戦記 葛藤の炎

イヅナとレオナードは顔を見合わせる。月は地球からは見ることのできない新月から少しずつ見えるようになり、十五日経った夜には美しい満月を見せる。

「次の満月の日っていつなんだよ?」

レオナードが訊ねると、ヴィンセントは冷静に「明後日」と返す。明後日、また誰かが犠牲になるかもしれない。イヅナはグッと袴を握り締めた。満月の夜に現れる妖、それはツヤたちからしっかり教えられたため、予想はつく。

「……人狼が、村人を襲っているのね」

普段は人の姿をして生活しているが、満月の夜になると狼の姿になって人を襲う妖だ。骨を簡単に噛み砕く顎と鋭い牙を持った危険な存在である。

その時、イヅナはハンカチを取り出す。人狼という言葉が浮かんだ時、あの毛の感触をどこで触れたか思い出したのだ。

アレス騎士団に入団できた後、式神について説明された時、ギルベルトと三大戦闘員が自身の式神を出してくれたのだ。

ギルベルトは真っ白なフクロウ、チェルシーはうさぎ、エイモンは栗色の毛をした馬、そしてツヤが狼だった。可愛く、そしてかっこいい動物の式神にイヅナは胸が高鳴り、式神たちを撫でた。だから、この毛が動物のものだと思えたのだ。