あやかし戦記 葛藤の炎

その時、この学校の教師であろう女性がニコラスを呼び、ニコラスは「ごめんね、そろそろ行かなきゃ。気をつけるんだよ」と笑って去っていく。

イヅナは、自分の指で挟んだ動物のものと思われる毛を見つめていた。この毛の感触を知っている気がする。しかし、それがどこで触れたものなのか、何の動物なのか、全く思い出せない。

その時、「グルル……」と低い唸り声が聞こえる。イヅナが驚きながら振り返ると、立派なたてがみを生やした獅子がイヅナを見ている。レオナードの式神だ。獅子はイヅナに近付くと、手に何かを押し付ける。乱暴に破られたメモ用紙だった。そこには、下手な字で「現場を見て回ったけど、手がかりなし。そっちはどう？」と書かれている。

「まだわからないって伝えておいて」

イヅナは獅子を優しく撫で、言った。獅子はコクリと頷き、その姿を消してしまう。

「さて、井戸を探さないとね」

イヅナは毛をハンカチに包み、持っていた小さなかばんの中に入れると井戸を探して歩き出す。数十分ほど歩いて裏庭にたどり着いた時、古びた井戸が姿を見せた。