私は唱馬の言っている意味が分からなかった。
「今日、泊まりに来ていい?
さくらと色んな話がしたいんだ。
僕の事ももっと知ってほしいし」
そう言った後、唱馬は肩をすくめた。
「ただ…」
「ただ?」
唱馬は恥ずかしそうに微笑んだ。
「ただ…
さくらのそばに居たいだけなんだ…」
私は唱馬を優しく抱きしめた。抱きしめずにはいられない。
私にも母性本能というものがある事を確信した。
唱馬の少年のような心と可愛い笑顔、そして、たまに見せる気が強い部分が私の心をかき乱している。
唱馬がそばに居れば、慈恩の事なんてどうでもよく思えてくる。
私は唱馬を抱きしめたまま、いいよと囁いた。
それ以外の言葉なんて思いつかなかった。
コーヒーのいい香りが部屋を満たす中、私と唱馬の距離はあっという間に縮まった。
慈恩に惹かれている私の事を、唱馬はきっと分かっている。
でも、この先の事なんて、神様だって分からない。



