私はコーヒーメーカーをセットしてから洗面用の小さなシンクで手を洗い、マスクを外した。
そして、恐る恐る、鏡を覗き込んでみる。
さっきより状態が悪いのは明らかだった。
「見せてみ」
いつの間にか後ろに立っていた唱馬が、私をくるりと自分の方へ向かせた。
「あ~~、痛そうだよ」
唱馬はそっと私の口元に手を当てる。
すると、優しいはずの唱馬の顔がみるみるうちに険しくなり、悔しさに満ちあふれた顔になった。
「さくら、ごめん…
やっぱり、あの時、僕が慈恩に一言言うべきだったんだ。
あの場でそういう事を言える人間は僕しかいなかったのに」
私はそっと慈恩の手を握った。
「いいの…
私がやりますって言ったんだから。
だから、唱馬は自分を責めちゃダメ。
もうこの件は終わりにしよう。
慈恩さんにも何も言わなくていいからね」
慈恩という言葉を声に出すと、また涙が溢れてきそうになる。
でも、何とか必死に堪えた。
この涙が溢れる理由が何かも分からないから。



