馨月亭の寮に行くには、一度、敷地内の外に出なきゃいけない。
私は従業員用の通用門をくぐる前で立ち止まり、唱馬の袖を引っ張った。
「ここでいいよ。
唱馬はもうフリージアに戻って」
これ以上、唱馬に甘えるわけにはいかない。
でも、唱馬はニコッと微笑んで、わざと私の腕を掴んだ。
「さくらをちゃんと部屋まで送り届けるって鰺坂さんと約束したから、部屋まで送るよ」
「大丈夫だよ、すぐそこだし」
でも、唱馬は私の言う事なんか全く聞かずに、門から外へ出た。
「コンビニ寄る?」
コンビニって…
恋人同士じゃないんだから。
「寄らなくていいよ」
私はそう言ったはずなのに、唱馬は寮へ行く途中にあるコンビニに入った。
でも、私は店へは入らない。
唱馬は制服の上着を脱いでいるけれど、でも、れっきとした馨月亭の人間。
私だって、もちろんそう。
馨月亭の評判を落とすような行動は絶対に慎まなければならない。
この時間帯に、二人でコンビニにいたら目立ってしまう。



