「了解です。
僕がちゃんと部屋まで送り届けるので大丈夫です」
唱馬は可愛いだけの男の子じゃなかった。
私を胸に引き寄せたまま鰺坂さんとそんな事を話すなんて、もしかしたら、ゴリゴリの俺様体質なのかもしれない。
でも、今はそんな唱馬が頼もしい。
私の心はズタズタに傷ついて、唱馬の温もりがなければこの場所から動けなかった。
恋に無知な人間は、恋愛特有の浮き沈みに百パーセント振り回される。
私みたいな人間は、少しの事で地獄の底に落とされる。
「もう涙は止まった? 大丈夫?」
唱馬が隣にいてよかった…
「ありがとう… もう大丈夫みたい」
「じゃ、もうこのまま部屋へ帰ろう。
さくらの荷物はあとで僕が届けるから」
「…うん、ありがとう」
控室に差し込む西日は、二人の味方のように心地よい気持ちにさせてくれる。
私はマスクで顔を隠し慈恩に手を引かれ、フリージアを後にした。



