間近で見る唱馬の顔。
肌が綺麗でまつ毛も長いんだ…
お化粧をしたらそこら辺りの女の子より可愛くなりそう…
私は現実逃避をしているのか、そんな事を考えていた。
「ねえ、慈恩は? 何か言ってた?」
「何かって?」
私は本当にそう思った。
本来なら、あの時、慈恩は私にどんな言葉をかけるべきなのだろうと。
「協力してくれてありがとうとか、肌の調子はどう?とか。
かける言葉はいっぱいあるよ」
私は首を横に振った。
唱馬に慈恩から一言も言葉をかけてもらわなかった事を隠す自信はない。
そう思ったら、何だかすごくみじめになった。
自ら進んでピエロになったはずなのに、それなのに、何でこんなに空しいのだろう。
気が付けば、私の瞳から涙がポロポロ溢れていた。
涙の塩分が腫れている下瞼に沁みて、泣きながら顔しかめてしまう。
本当は、唱馬の前では泣きたくなかったのに…
唱馬は何も言わずに、コットンで優しく涙を拭いてくれた。



