「仕事は五時までだから、それまではマスクでどうにか隠します。
ありがとうございます。
心配をかけちゃって」
もともとアレルギー体質の私は常備薬をちゃんと持っている。
その事を太田さんに伝えると、ちょっと安心したように肩をすくめた。
そして、太田さんは私の隣に座る唱馬に目配せをして大きくため息をつくと、こう言った。
「唱馬君にこういう事を言ってもどうしようもないのかもしれないけど、だけど、馨月亭の上に立つ人間なら、まずはスタッフの事を一番に考えてほしい。
私達も一緒になって笑っちゃったけど、でも、こんな風にこの企画が簡単になくなっちゃうなんて思わないから。
さくらちゃんの可愛いお顔がこんなに腫れちゃって、私達も何だか胸が痛い。
本当にごめんね、さくらちゃん。
必ず、病院に行ってね」
そんな重たい言葉を残し、太田さんはトリートメントルームへ戻っていった。
控室は私と唱馬の二人になる。
唱馬は目を細めながら、私の顔をしげしげと眺めた。
何度もため息をついて、自分の感情を必死にコントロールしているように見える。



