「高梨さん、奥の部屋でそれ取っちゃいましょ」
私は仲のいいエステスタッフの太田さんの声に我に返った。
時計を見ると、もう14時を過ぎている。
チェックインが15時からで、そして、エステの開始時間は16時からと、皆、そろそろ忙しくなる頃だった。
私はまだ紅葉が顔に貼り付いた状態で、太田さんと一緒に奥のスタッフルームへ移動する。
すると、その部屋で、唱馬が私を待っていた。
「ずっとここに居たの?」
そういえば、皆が私の顔を見てゲラゲラ笑っている時から、唱馬の姿を見ていない。
唱馬はあの場所から離れていたらしい。
「もし、僕があの場所に留まってたら、慈恩とケンカしてたと思う。
それがダメな事は百も分かってる。
だから、ここへ避難した。自分自身もおかしくなりそうだったから」
唱馬はそっと私の隣に座った。



