私は現実とは思えないこのシチュエーションにため息をついた。
この特別な空間を、慈恩のご先祖様はプライベートスペースとして使ってきた。
明治時代から百年以上の月日が流れ、今、深紅に染まる紅葉の中、慈恩と私がここにいる。
不思議な縁に導かれて…

「でも、まだ、落ちてる葉っぱは少ないな。
いい感じのものがあったら、ちぎっちゃっていいからね」

「ちぎる? こんな綺麗な紅葉を?」

私は拾うつもりでやってきた。落葉した葉っぱを有効利用するために。

「だって、落ちてるものだけならどう見ても足りないだろ?
いいよ、たくさん摘んじゃって。
俺が許可を出すから、何も気にしなくていいよ」

そ、そんな…
今が見頃で生命力に満ちている葉っぱを摘む事に、何だか尻込みしてしまう。
私は慈恩の言葉はスルーして、落ちている葉っぱを拾い始めた。
慈恩はベンチに座ったまま、そんな私を観察している。