慈恩は車を降りると、私のために助手席のドアを開けてくれた。
私は、あまりの喜びに、被ろうとしていたヘルメットを落としそうになる。
とりあえず、ヘルメットは持ったまま車の外へ飛び出した。
すると、慈恩は私の手の中からヘルメットを取り上げた。

「これは要らないよ」

「え、でも… 決まりがあって…」

慈恩は私の言葉を聞き流し、ヘルメットを助手席のシートにポンと投げた。

「俺がいいって言うんだから、大丈夫。
それに、この場所はそんな危険なんて全然ない所だから」

「…はい」

慈恩がそう言うのなら、私はそれに従います。
それでもヘルメットを、なんて絶対に言いません。
私はヘルメットで少し乱れた髪を手ぐしでふんわりと戻した。
今日は侍風じゃない事をやんわりとアピールしながら。
でも、慈恩は、私の素振りなど全く気にせずにどんどん先へ進んで行く。
私は慌てて小走りで付いて行った。