今夜の唱馬のキスは、私の知らないキスだった。
攻撃的で、力に任せた傲慢なキス。
でも、すぐに、いつもの優しさに満ちた唱馬だけのキスに変わる。
小声でごめんと囁く唱馬を、私は突き放す事ができない。

「さくら… 愛してる…
愛し過ぎて、自分が壊れそう…
僕だけのさくらでいて…」

きっと、壊れてしまったのは私の方かもしれない。
唱馬の首元にしがみついた。
唱馬を傷つける事が怖くて、唱馬を慰めてしまう私がいる。
それは、一番しちゃいけない事。
でも、この世の終わりのように震えている唱馬を目の前にして、私は非情にはなれなかった。

この部屋で、唱馬と何度も抱き合った。
今だって、キスからセックスへ変わろうとしている。
私は、きっと、唱馬を捨てる事なんてできない。
専務を想う気持ちは間違いではなくて、でも、唱馬を想う気持ちも噓ではない。
こうやって、肌を重ね合う事で違う愛が始まったのなら、そう納得するしかないのかも…