唱馬は私の手を更に力強く握りしめる。
そして、スッと私を引き寄せて、当たり前のように抱きしめた。
私の頭は唱馬の言葉を聞き入れるけれど、心はそうはいかない。
専務と交わした情熱的な優しいキスが、強烈な感覚として心のど真ん中に居座っている。
それは、もう、どうやっても動かない。
唱馬は私の首元にキスをして、そして、私のおでこに自分のおでこをくっつけた。

「慈恩がどういう言葉でさくらの心を掴んだのか、僕は知らないけど…
僕は僕のやり方で、さくらの心を掴みたい…
でも、その前に、もう、僕はさくらがいないと生きていけないみたいだ。
こんな気持ちは初めてで、自分を見失いそうになる」

唱馬の苦しそうな声に、私の胸は痛み出す。
唱馬は、そういう私の隙を見逃さない。
半ば強引に私のくちびるに自分くちびるを重ね合わす。

専務とキスをした事を、きっと、唱馬は分かっている。