「唱馬… ごめん…
いや、あの、専務に一目ぼれっていうのは、うん、ちょっと違うのかも…
唱馬の事だって…」

唱馬は肩で大きく息を吐くと、二、三回首を振った。
そして、私に視線を戻す。
その視線は、尖って見えるほどの目力だった。
優しい男の子じゃない、力強い保護本能が唱馬の全身から滲み出て見える。
そのギャップに、私は一歩後ずさりしそうになる。

「今日は、もう遅いから、僕は帰るよ」

言葉には可愛らしさを感じるけれど、表情はまだ狼のようだ。
私が黙っていると、そっと私に近づいて私の手を優しく握りしめる。

「何回も言いたくないけど…
慈恩の事は、もう一度よく考えてほしい。
慈恩にさくらが惹かれているのはよく分かった。
でも、さくらが知っている慈恩が本当の慈恩とは限らない。
すぐに答えを出さないで…
僕は、慈恩の気まぐれにさくらが振り回されているとしか思えなくて」