トライアングル的極上恋愛〜優しい沼に嵌ってもいいですか?〜



もう、ここにいる私は、昨日までの私じゃない。
いや、昨日までの私も本当は今の私だったのかもしれない。
だけど、今のこの瞬間は、そんな事はどうでもよかった。
私は流れ続ける水道水に手を浸しながら、ゆっくりと目を閉じた。
今さら、考えなくても分かっている。
心の中は専務でいっぱいなのだから。

私は、意を決して、くるりと振り返った。
でも、唱馬の顔を見ると、何も言えなくなる。
唱馬は、まるで、飼い主の帰りをずっと待っていた待ちくたびれた子犬のようで。
その可愛らしい瞳には、安堵感と悲しさが見てとれた。

「ごめん、勝手に上がり込んで…」

こんな時でも、唱馬は優しい。
私の身勝手な行動は、確実に、唱馬を傷つけている。
私は大丈夫だよと呟いて、濡れた手をタオルで拭いた。
手の水滴が永遠に湧いて出てくれたらいいのに。
この場から逃げ出したい…
そんな最低な事を考えながら、タオルをバスケットの中に投げ入れた。