桜色の夢

「あの、私…私!」

彼女がそういうと目の前にいた男の人に勢いよく抱きしめらた。彼の肩と桜の木だけが視界に入る。そこで彼からも彼女にこう言った。
「…、分かってる…分かってる!
 俺も川澤がー…」

「…うん。私も貴方のことが…。
 好きです。」

 ガバッ

「いっ今の…夢?」


ガタンガタン ガタンガタン

ただ電車の音だけが駅中に鳴り響いていた。

「何で私こんな夢…。」

彼女が疑問に思う理由、それは今までにこのような夢を見た体験が無かったからである。彼女の名は川澤美知。15歳。容姿端麗であるが今までに恋愛経験は無い。

「あの夢なんだか不思議だったなぁ。」

美知がそう思う訳は主に3つあった。それは、その夢はモノクロだったから、男の人の顔はよく見えなかったから、恋という感情を感じたことがないの3つが挙げられる。そんな状況下で美知がそう思うのは至って普通で仕方がないことだった。

「でも…あの人の声だけはよく覚えてるんだよね。」


「おっはよう〜‼︎みっちー!」

「おはよう。由理。」

「ほんとよかった〜。高校でも同じクラスで!」

「私も、嬉しいよ。」

彼女の名前は星坂由理。美知とは中学からの友達である。彼女も容姿端麗であるが、美知とは違い中学時代は数多くの人たちから告白されたとかいないとか…。

「う〜ん。」

「どしたのみっちー?何?悩み?相談なら何でものるよ〜‼︎」

「じっ、実はね。不思議な夢を見たの。」

「夢って、どんな?」

「何か…知らない男の人と私がいて、そしてハグ…されたの…。」

「え〜〜〜〜ーー!??」

「ちょっ、由理!声が大き…」

美知は思わず咄嗟に由理の口を塞いだ。

ザワザワ

周りの様子を見るとどうやらもとからクラス中のざわめきはかなりのものだったらしく、注目はされていないようだ。

「ゆっ、由理。びっくりさせないでよ〜。」

「だ、だ、だ、だって‼︎みっちーに好きな人がいたなんて…あたしショックで…。」

「ちがーう!そんなんじゃないから!私には今、そんな人いないから!」

「え⁉︎違うの?大スクープだと思ったのに…。じゃあ恋したこと無いのに、そんな夢見たってこと?確かに不思議だね…。」

「うん。ほんとにそう…。」

美知の脳裏には、『もしかして、忘れてるだけで恋をしたことあるのかなぁ?』といった疑問がよぎった。

「もしかすると、それって『正夢』とか?これから起こることを夢で見ちゃった感じじゃない?」

「どうだろう。私は、見当もつかないや。」

ガララララ

「あっ!先生来た!」

「は〜い。みんな席に着けー。ホームルームを始めま〜す。」

「それじゃあ、また後でゆっくり話そうよ!」

「うん…。」

☆私は『正夢』じゃないと思う。だって今までだってそう言った感情とは無縁できっとこれからだって、そうだ…。

美知は、ただの夢、所詮は夢だと思うことにして、これ以上深く考えるのをやめた。


「じゃあ、早速だけど、川澤さん!」

「はっはい!」

「今日、日直よろしくね〜。」

「わ、分かりました。」

「今日、入学式で終わりだからそれ終わった後に、このプリント職員室まで持ってきてね。」

「はい。」


そして、放課後…。

「みっちー!一緒にか〜えろっ!」

「ごめん。今日、日直だからプリント持って行かないと!」

「あっそういえば、そうだったね。じゃあ明日は、一緒に帰ろうね!」

「ほんと、ごめんね。」

☆高校生活初日に、日直なんてついてないなぁ。しかも、プリントが重い‼︎一体何枚あるんだろう。とにかく早く終わらせてしまおう。

「失礼しました。」

☆まさか…先生の話に20分も付き合わされることになるなんて。あっどうしよう!今日、早く帰って来なさいって言われてるんだった!

「急がないと!」

美知は急いで階段を降り始めた。そして次の瞬間!足を踏み外し、足首に電気のような痛みが走る。

「キャアー‼︎」

グイッ

☆あれっ?なんか今腕が引っ張られたような…。

「だっだっ大丈夫…か?」

驚いて美知が目を開けるとそこには、知らない男の子がいて、彼女の体を支えてくれていた。

「わっわ⁉︎ごめんなさい!私!」

「わ〜⁉︎歩こうとすんな!くじいたんろ?」

「えっ?私はこんなの全然平気でーっ…。」

「やっぱり痛いんだろ?」

「…はい。」

「んじゃ保健室まで一緒に行こう!歩けそうか?」

「…えっとー…。」

「そんじゃあこれで行くか!よいしょっとっ。」

「へ⁉︎えぇ〜⁉︎」

☆こっこっこっこ‼︎これはー…!⁉︎お姫様抱っこ‼︎

美知が動揺の思考を巡らすのも当然であった。何故ならば彼女はこれっきしも恋愛経験が無かったから!

「そんな⁉︎悪いです!私は大丈夫です!歩けます!」

「くじいた足で無理矢理歩いたら余計悪くなるだろ。いいから、いいから!」

☆…私今まで男の人に手を引かれたことも、もちろん抱っこされたことも無かった。なのに急にこんなに初めてのことばかりで人生って分からないものね…
それに何故だかドキドキしてしまう。

ガララララ

「失礼しま〜す。あれっ誰もいねぇーぁ…。
 とりあえず、ここ座って!」

「はい。」

それから彼は、美知の足に包帯を巻き、応急手当てを施した。そして美知が彼に言葉をかける。

「あの…。本当にありがとうございました。何とお礼したらいいか…。」

「お礼なんていいって!事実、あそこで俺が動かなきゃ、大惨事になってただろうからな。」

「それは…そうですね…。」

「………。」
「………。」

静寂に包まれる保健室。

☆これは、気まずい…‼︎男の人と今までちゃんと話したことないのに…。どうにかしてこの場を乗り切らないとー‼︎でもどうすればー⁉︎

緊張のあまりに混乱する美知を横目にその男の人は口を開き、美知に尋ねた。

「あっ君、そういえば、1年B組だったよな?」

「えっはい!そうです!」

「俺も!俺もB組なんだよ!」

「そうだったんですか⁉︎えっえっと〜その、名前は…」

「あっ!俺は佐岡。佐岡刹那。」

「私は川澤美知です。これからよろしくお願いします」

美知は『仲良くできるといいなぁ』と思いながら、刹那に自然な笑顔を向けた。

「…っ…、かっかわぃぃ…。」

思わずボソッと呟いた。

「え?今何か言いませんでした?」

「え!?!?いっいっいっいや!何にも⁉︎」

☆びっくりした〜。可愛いっていわれたのかと思っちゃった。

★やべぇ〜。心の声がつい…。

「よろしくな!川澤!」

ブーブー‼︎

ちょうど今話題が尽きて訪れた静寂を妨げるかのようにその瞬間、着信音が保健室に鳴り響いた。

「ごめんなさい。メールが…。」

「あ‥うん…。」

「!?!やばい!お母さんからの電話履歴が10件⁉︎マナーモード解除すりの忘れてたー!」

「ええ!?!」

「早く帰らないと!」

「だっ大丈夫なのか?足…。」

「はい。もう大分良くなりました。」

「そうか。なら良かった…。」

「あ!でも…ですね…。」

美知は、困り顔で刹那の表情を伺うように顔を覗き込んだ。

★うぐっ…。可愛い。

「…どうかしたのか?」

「実は私、自転車通学なんです…。」



「…本当に、申し訳ないです…。」

「大丈夫だよ!家こっちの方だし。まだ真っ直ぐか?」

「はい。」

☆まさか2人乗りをすることになるなんて…。何から何までして貰ってお礼しないのは失礼よね。いつかお礼しないと!それにしても、佐岡くんの声って夢の中に出てきた男の人に似ているような気がする。
なんて…まさかね!

なんてことを考えているうちに美知の家は目の前まで迫って来ていた。

「あっここです!」

「そっそうか…。あれっここって?」

★何か妙に見覚えのある外観…えっと確か…。

「はい!私の家、小さな喫茶店やってるんです‼︎」

「あー、そうだそうだ思い出した!ここ、川澤の家だったのか…。」

「あっあの…もしよろしければ、お詫びもしたいので好きなときにいらしてください!いつでも大歓迎ですので‼︎」

「あっああ!もちろん!じゃあ俺はこれで。足お大事に!また明日な!」

入学初日からの色々な初めてにちょっと緊張しながらもこの1日は幕を閉じた。美知は、これからの楽しい学校生活に期待を抱いて、

『これからもっとみんなのこと知っていって、もっと仲良くなれるといいな』

と思い笑顔を浮かべ、美知は布団に入った。そしてもう既にこの瞬間から美知の運命は動き出していた。
当然…彼女はそんなこと知るはずもなく…。


「あっ川澤。おはよう。」

「あ、佐岡くん!おはようございます。」

「せっかくだから教室まで一緒に行こうぜ!」

「はい!」

「そういえば足の調子はどうだ?」

「軽い捻挫だったので大丈夫です。」

「そっか。」


ガララララ

「あっみっちー!おはよ…てっえ!?!」

「みっちー…何で『刹那』と一緒にいるの?」

☆え?刹那…?下の名前呼び⁉︎

「あっ、よう!『由理』!」

☆由理…!?!?

「えっ…とっ2人は…どういう関係で…?」

「ジャジャン!問題です‼︎あたしと刹那の関係とは一体なんでしょう?」

「ええ⁉︎…とっ〜。」

☆う〜んと…下の名前で呼び合う親しい仲といえばやっぱりあれかなぁ‼︎

「…友達?とか!」

「ブーブー!不正解で〜す!あと人押し!」

「じゃあ、ただの知り合い‼︎」

「う〜ん、さっきより遠くなった。」

「えーえっと〜えっと〜‼︎」

「もう…そういう所変わってないね!美知!」

「へぇ?」

「ほんと…この感じ‼︎」

「えっそれってどういう…?」

「まぁ、それでこその美知なんだけどね。」

「…?」

「あはは。それよりもさっきの!あたしと刹那の関係は、ちっさい時からよく遊んでて…まぁ幼馴染ってやつよ!」

「えー‼︎そうだったんですか⁉︎」

「うん。まぁ…。それにしても由理!いつもこんな感じで川澤を困らせるようなことしてるのか⁉︎」

「えっいつもって訳じゃ無いわよ、たまによたまに!こっこれも何かの縁ってことで仲良くしよ!ね!」

そう誤魔化すような言葉を重ねてから、由理は2人の肩に手をまわして自分の方へ引き寄せた。無邪気な笑顔を2人に向けながら。

「由理!佐岡くん!これからも、よろしくお願いしますね!」

「おう、よろしく!」


「おう!佐岡!」

その声で3人が声の方へ目をやると、眼鏡をかけた男の人が手を振りながら近づいてきた。だが星坂の方を見るや否や、振っていた手を下ろし、無愛想な顔で3人の前に立ち止まった。

「あっ、瑠偉か!」

「えっと、そちらは…?」

「あっ紹介するよ!こいつは中学からの付き合いの熊藤瑠偉だ。」

「どうも…。」

「かっ川澤美知です!よろしくお願いします!」

「あっどうも、こちらこそ…。」

「『初めまして!』あたし星坂由理。よろしくね!」

「!、………。」

「?」

○あれっ?あたしの時だけスルー?何で?

そのとき熊藤は顔を赤面させ、俯き、黙ってただ立ち尽くしているだけであった。

「えっと…え⁉︎その…あの⁉︎熊藤さん?」

美知がおどおどしている理由それは熊藤の顔にあり。

「…あぁ!!?」

「どうなさったんですか⁉︎かっ…顔が怖いです‼︎」

「えっあっ…ごめん…。」

「……。」

○何……?こいつ…、もしかして美知のこと…。

星坂は何かに感ずいた様子であった。

「おっ俺、ちょっと外出てくるわ!」

「えっ、でも、もうホームルーム始まるぞ。
 おい!瑠偉!……。どうしたんだ?あいつ。」

「あたしも、ちょっと用事!」

そう言ってすぐに熊藤の後を追うかのように教室から星坂は離れて行ってしまった。

「……どうしたんですかね。二人とも…。」

「…さっさぁ?」

状況が飲み込めていない美知と佐岡の二人は呆然と立ち尽くしていた。


タッタッタッ!!

「ちょっと!あのさ……!」

少し息を切らした星坂は熊藤の物静かな背中に話しかける。

「えっと…熊藤君だっけっ?」

「……何か用?」

「さっき思ったんだけどもしかして熊藤ってさぁ。」

静寂の空間に熊藤の息を飲むゴクッの音だけが鳴った。

「美知のこと好きなの?」

「は?なんで?」

その時、熊藤はその発言に対して見当違いだと言いたげな顔になったが、星坂は、自分の疑問を確信へと変えるために話を続けた。