再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司

「お疲れ様です」

救急外来へ降りると、処置スペースの一番奥に何人かの医師や看護師が集まっている。

「お疲れさま。今日はお前か」
そのうちの一人、救命医の杉原敬(すぎはらけい)が私に気づいた。

「何、私では不足なの?」
「バカ、そういう意味じゃない」

わかっている。でも、敬にはついこんな口調になってしまう。

杉原敬は大学の同期。
当時は普通に仲のいい友達の一人だった。
大学を卒業後は研修先もバラバラで音信不通になっていたけれど、2ケ月前私がここにやってきたときに再会した。
この春勤め始めたばかりの私と違い研修医時代からこの病院で働いている敬は、仕事ができて要領もよくて、先輩ドクターや看護師の信頼もあり今や救命科の中堅医師的な存在になっている。
そして、この病院で私のことを下の名前で呼ぶもう一人が彼だ。

「胃カメラだな?」

運ばれてきた中年男性を診察する私に、敬が聞いてきた。

「うん、そうね」

患者の様子からは食道や胃など上部消化管からの出血が強く疑われる。
まずはカメラをするしかないだろう。その上で止血できそうならしてみる。
私ももう一度カルテを確認して、内視鏡室へと準備に向かった。