再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司

「心配しなくても、来週からはもう少し楽になるからね」
私の表情をどう理解したのか、副院長が安心しなさいと笑いかけてくれる。

「えっと・・・」
その意味が分からず、私はキョトンと顔を上げた。

「そうか、環ちゃんは知らないのか。消化器科にはもう一人スーパードクターがいてね、来週3ヵ月のドイツ研修から帰ってくるんだ」
「へー」

そんな先生がいたなんて知らなかった。
いくら海外研修中でもデスクだってあるはずだし、気づかないはずないのに。

「週3回やってくる嘱託医だから、知らないのも無理ないかもしれないね」
「ああ、なるほど」

病院に勤務する医師は、主にその病院で働く常勤医とよその病院に属しながら時々応援にやってくる嘱託医に分かれる。
嘱託医はバイトとかパートのような存在だと思われがちだけれど、実際は多くの症例やオペを経験するためにやってくる人の方が多い。要はキャリアを積みたいってことらしい。

「すごく男前だから、環ちゃんもびっくりするよ」
「そんな・・・」

男前だろうと、スーパードクターだろうと、私には関係ない。

ブブブ。
院内PHSがポケットの中で震えた。

「はい、和田です」

電話は救急外来からの呼び出し。
消化管からの出血で運ばれてきた患者の診察依頼が入った。

「わかりました。行きます」

私は副院長に頭を下げて救急へと向かった。