「大丈夫?疲れてない?」
しょぼしょぼと目をこする塙くんが気になって声をかけた。

「ええ、平気です」
まだ医師になって2ヶ月ほどしかたたない塙くんが、力強く返事をする。

すごいなあ。
私が研修医1年目の頃なんて、何をしていたかの記憶もない。
ただ忙しくて、時間がなくて、常に眠かった。
徹夜なんて受験勉強で何度も経験しているはずなのに、当直って言うだけで緊張して、仮眠なんて取れたことがなかった。

「先生こそ顔色が良くありませんし、目の下にクマができてますよ。昨日、飲みました?」
「違うわよ」

ったく、今時の子は社会の上下関係ってものが分かっていない。
たとえ上司でも年上でも遠慮なくものを言うし、敬うってことを知らないんだから。


「先生、行きますよ」
「え?」

いつの間にか机の上を整理して塙くんが立ち上がっている。

「カンファレンスが始まります」

ああ、そうだった。
今日は週に一度の外科と消化器科合同のカンファレンス。
その前に病棟の様子を見に来たのに、話しているうちに時間になってしまった。

「先生っ」
「ああ、うん」
結局何もできないまま私はカンファレンスに向かうことになった。