「環、俺と付き合ってみないか?」
「はあ?」
今度は私がにらんでしまった。

「悪くないと思うぞ。お互い気心が知れているし、遠慮なくいられるだろ?」
「それは・・・」
恋愛感情とは違う気がする。

「難しく考えずに、時々2人で飯にでも行こう。それならいいだろ?」

確かに、それなら今までの関係と何も変わらない。

「でも・・・」
私はチラッと敬を見上げた。

「何だよ?」
「敬は、何を企んでるの?」
何の意図もなくこんな提案をするのは絶対おかしい。

ククク。
私のことをじっと見つめていた敬が、おかしそうに笑いだした。

「環にはかなわないな」

やっぱり何かあるのね。
「いいから、白状しなさいよ」

「わかった。実は、最近になっていくつか見合いの話が来ていてね、正直困っていたんだ」
「お見合いって敬はまだ28でしょ?」
男性にしては早すぎない?

「俺みたいに継がないといけない実家もしがらみもない男性医師は売り手市場だからな。結構早い時期から見合い話が来るし、仕事上の付き合いもあって簡単に断れないケースも少なくない。解決策はさっさと結婚することなんだが・・・」
「敬はそんな気ないでしょ?」
「まあな、今は仕事が面白い」

なるほどね。
それで私をカモフラージュに使おうと。

「事情は分かったけれど、私には新太がいるんだから協力はできない。ただ、食事くらいは付き合うわ。それでいい?」
「ああ」

この時、敬がさらに何か企んでいるなんて思ってもいなかった。