「すみません。でも、僕は誰も傷つけるつもりは無かったんです。無責任に聞こえるでしょうが、自分でもなぜこんなになったのかがわからないんです。実際、混入してしまった毒物も自分で使うつもりで持っていました」
「あなた、死ぬ気だったの?」
「はい」

薄々想像はしていたけれど、本人も口から聞いてしまうと少し怖い気がした。

「何をやってもうまくいかなくて、仕事も限界で・・・自分でももう無理かなって感じていたんです」
「無理って・・・」

人はみな自分にとってギリギリの所で踏ん張って生きているんだと私は思ってる。たとえ周りから見れば幸せに見えても、その人にはその人の苦労があるはずだ。

「毒物の混入が故意でなかろうと、衝動的な行動であろうと、その責任はあるはずよ」
下手したら人が死んでいたかもしれないんだから。

「すみません」
塙くんが深く頭を下げる。

年上の私に遠慮なくものを言う彼のことを今時の子だと見ていた。
ストーレートな感情表現も個性的だと思ったけれど、ここまでとんでもない行動に出るとは思わなかった。
彼がなぜこんな行動を起こしたのかはいまだにわからない。
ただ言えるのは、現状に不満があって何かを打破したかったんだろう。
それにしても、とんでもなく破天荒だ。