再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司

カメラをしてみると、出血は胃からだった。
幸い止血することもでき、腫瘍的なものもなし。一週間程度の入院で退院できそうな見込み。

「今日は救急病棟に入院でいいか?」
検査後、わざわざ敬がやってきた。

「うん。担当医は私になるからあとはこっちで指示を出すわ」
「ああ、頼む。ところで、お前ってカメラの腕がいいよな」
「はあ?」
何をいきなり。

「いや、気になっていたんだ。今日のカメラだって止血が大変だったのに、すごく早かったし。今のうちで一番上手いんじゃないか?」
「何バカなこと言っているのよ」
私なんかよりベテランの先生たちがたくさんいるのに。

「本気だって。指名できるんならお前にしたいって救命ではみんな言っているぞ」
「何?なんか難しい患者でも振ろうって魂胆?」
「違うって」

外科医が手術の腕で評価されるように、消化器内科はカメラの腕が物を言う。
私自身、カメラの腕が悪いとは思わない。それなりに勉強もしてきたし、経験も積んだし、それに・・・

「まあ、皆川先生にはかなわないけれどな」

え?
私は驚いて敬を見た。

「敬、今なんて言った?」

「だから、お前はカメラが上手いけれど、皆川先生は別格だって」
「・・・」

皆・・川・・先・・・生。
その名前を聞いただけで、息が苦しくなった。

「どうした、大丈夫か?」
「平気」
「嘘つけ、真っ青だぞ」

うん、わかってる。
今まで生きてきて一番大きな心の傷。その瘡蓋を触ってしまった。だから、今の私はおかしい。
本当に、同じ名前を聞いただけで動揺してうろたえる自分が情けないけれど、どうしようもない。

「来週ドイツから帰ってくるんだろ、そうなれば消化器科も少しは楽になるさ」

私の動揺の原因なんて知る由もない敬は、皆川先生の人となりを話しだした。でも、私の耳には入ってこない。
たまたま同じ名前で、偶然の一致とは思いながら、その名前を聞くだけで思い出してしまう過去が私にはある。