目次

まえがき

◎ポスター・看板のある店に飛び込め!

◎政治的飲み屋その1・GELLONIMO(新宿区歌舞伎町)

◎政治的飲み屋その2・ひしょう(新宿ゴールデン街)

◎政治的飲み屋その3・あかね(新宿区・早稲田大学前)

◎政治的飲み屋その4・かけこみ亭(国立市谷保駅前)

◎右翼団体の直会に潜入!

◎貧困系飲食店・ココルーム&喫茶アース(大阪市西成区)+釜ヶ崎教会探訪

◎討論バーその1・ロフトプラスワン(新宿区)

◎討論バーその2・アワーズルーム(大阪市)

◎宗教的飲み屋その1・エポペ(新宿区歌舞伎町)

◎宗教的飲み屋その2・中野坊主バー(中野区)

◎宗教的飲み屋その3・大阪坊主バー(大阪市・天六)

◎愛餐会食べ比べ!

◎聖なる儀式で酔っ払う

◎同人地産地消

◎本書で取り上げた店リスト(名前のみも含む)

あとがき


まえがき

 世の中には、政治家や政治活動家が経営する飲食店もある。有名な所では和民(自民党・渡辺美樹)やタリーズコーヒー(日本を元気にする会・松田公太)などが挙がるだろう。新宿ゴールデン街にある「ひしょう」は、「お龍ママ」こと長谷百合子(元日本社会党代議士、引退後は右翼運動研究家)が自ら接客をしていたという。ドキュメンタリー映画「イナかのせんきょ」でクローズアップされていた八木拓真(後に伊那市議選に当選)も、産経新聞の記者を辞めて政治家を目指すにあたり、居酒屋「酒とカフェ はしば」を開いている。大仁田厚(プロレスラー、自民党)の母が経営する料理店「ファイヤーママ」や、安倍晋三(首相、自民党)の妻の安倍昭恵が経営する居酒屋「UZU」等、政治家の家族が店を開いている場合もある。過去には鳩山由紀夫(元首相、元民主党)と平山誠(新党日本→新党大地→みどりの風)が共同経営していた居酒屋「トモト」等もあった。

 選挙での当選には至ってないが、西形公一(政治活動家、表現規制問題研究家)や松本哉(リサイクル店主、元「法政大学の貧乏くささを守る会」代表)、安間優希(セクシャルマイノリティ運動家)、外山恒一(ストリートミュージシャン、ファシスト団体「我々団」代表、元アナキスト団体「日本破壊党」代表)、植垣康博(元「連合赤軍」活動家)、岡留安則(ジャーナリスト、元「噂の眞相」編集長)等の様に、候補者や政治活動家、政治に詳しいマスコミ関係者等が自ら飲食店の設立・経営に関わったり、自ら接客もしながら政治活動を行なっている場合(池袋「千登利」、高円寺「なんとかBAR」、静岡市「スナック・バロン」、名古屋市「Queer+s」、福岡県「BARラジカル」、那覇市「酒処 瓦家別館」等)や、西早稲田の「あかね」の様に、政治的・社会的議論を目的に客が集まる、啓蒙思想・市民革命時代のヨーロッパの喫茶店の様な店もある。

 又、キリスト教会においては、礼拝や記念日(クリスマスやイースターなど)の後に「愛餐会」と称する食事会や茶話会を行なう事も多い。高田馬場の「預言カフェ」の様に教会が直接経営している飲食店や、仏教系でも全国各地にある「坊主バー」のように現役の宗教家が直接接客をする店もある。

 本書は、このような政治的・宗教的な場での飲食の様子をしたためたグルメレポート本である。腹だけでなく、楽しい会話で頭や心も満たせる場所をどんどん紹介していきたい。因みに、本書で挙げる店の殆どは、同人誌即売会やSNSのオフ会のついでに寄った所である。

 尚、筆者は飲み会自体は大好きでオフ会も度々主催する癖に、アルコールは体が1滴も受け付けず、ビールや酎ハイ、カクテルなどでも1滴舐めればベロベロに泥酔してしまう程の下戸中の下戸である。故に飲み屋巡りは全てノンアルコールドリンクで行なっているが、その点は御容赦願いたい。又、筆者はプロテスタント系教会に通うクリスチャンでもある為、宗教的には若干キリスト教贔屓になるきらいがある点も御容赦頂ければ幸いである。

水野 松太朗


◎ポスター・看板のある店に飛び込め!

 政党・候補者の党員・支持者の中には、自宅や経営する事業所の壁にポスターを貼っていたり、入口に政治家・政治活動家の後援会連絡所である事を示す看板を置いたりする事がある。その事業所が小売店や飲食店などである事もある。筆者はポスターや看板のある店を見ると、率先して入る事にしている。

 書店なら当然、置いてある書籍や雑誌を確認する。自民党支持者の書店なら「正論」「WiLL」「Voice」「SAPIO」「撃論」「JAPONISM」「言志」等ネトウヨ御用達雑誌や「MAMOR」「丸」「軍事研究」「世界の艦船」等のミリタリー関係、「大吼」(右翼団体「大行社」機関誌)や「実話ドキュメント」(暴力団・任侠団体・右翼情報誌)の様な右翼関係誌等、公明党支持者なら「潮」「第三文明」「パンプキン」等の創価学会機関誌が充実している、という具合である。エコロジー志向なら「ソトコト」「Ku:nel」「通販生活」等、市民派志向なら「世界」「創」「紙の爆弾」「SIGHT」「DAYS JAPAN」「現代思想」「週刊金曜日」等、新左翼志向なら「新世紀」「プロメテウス」「社会評論」「序局」「情況」「オルタ」「ピープルズプラン」等という事になろう。共産党支持者で恐らく民主商工会(民商)加盟の書店は共産党機関誌「前衛」「経済」「女性のひろば」「議会と自治体」「月刊学習」や、関連団体の機関誌「学習の友」(労働者教育協会)「民主文学」(日本民主主義文学会)等が並ぶ訳だが、「しんぶん赤旗」日曜版に結構大物の作家が漫画を連載している(手塚治虫「羽と星くず」「八丁池のゴロ」「タイガーランド」、矢口高雄「蛍雪時代」、山本おさむ「今日もいい天気」、Moo.念平「宅配屋ビンちゃん」など)関係で結構漫画が充実していたり、党中央は「文化的退廃」と猛批判・全否定しているポルノ雑誌やエロ漫画等が販売されている事もある等、棚を見ていると非常に個性的で結構面白い。

 当然の事ながら商売なので、生活の為には売りたい物だけではなく売れる物も置く必要がある。自民党支持者でも、共産党支持者である高畑勲らが制作に関わるスタジオジブリの関連作品や手塚治虫の作品を置いたり、逆に共産党支持者でも公明党系出版社である「潮出版社」が発行する横山光輝の「三国志」等を置いたりせざるを得ないのを見ると、面白さと悲哀を同時に感じてしまうものである。

 一方、コンビニなどフランチャイズの強いチェーン店については、本部役員が余程政治に熱心でない限りポスターは貼れない。政党機関紙を店で売るのも本部の許可を必要とするので、ほぼ不可能だという。但し、本部役員が選挙に絡めば、店員は思想信条を問わず動員される。ワタミやジョイフル(九州に本社のある激安ファミレスチェーン)は経営者が議員や候補者であるせいか、店内外は自民党のポスターやビラで埋まる。店員はたとえ他党支持者でも自民党支持を強制されるのだから辛い。勝手に党員・後援会員として登録されたり、政治献金が天引きされたり、政治資金パーティに自腹で強制参加させられる等の事例もあり得ると考えられる。こうした動員選挙・ぐるみ選挙は憲法違反と主張する動きもあるが、最高裁は「職業選択の自由があるのだから、嫌なら辞めて余所で働けば良い」と、事実上労働者側に選択の自由が無い現実を全く無視した判決を出している。因みに、イオンモールやミニストップ等を経営するイオングループも、民主党代表岡田克也の一族が経営している。

 然し、何といっても最も面白いのが飲食店である。海外でも、例えばイギリスやフランス等では喫茶店が政治談義の場となり、啓蒙思想の発展や市民革命等において重要な役割を果たした。酒場等も社交場として栄えている。日本でも、喫茶店を新聞・雑誌・書籍を読む情報収集や談義の場として使用したり、ワークショップ等の形式を取り入れて、イヴェント等を行なう店もある。酒場も「居酒屋談義」と呼ばれる程、政治・社会・時事ネタが酒のつまみとなる事が少なくない。時には店のスタッフを巻き込んで議論が行なわれる事さえある。店に置かれる書誌やチラシ、貼られるポスターの数々にも、店主・店員の個性が光る。新宿「ロフトプラスワン」「ライブワイヤー・ビリビリ酒場」「カフェ・ラバンデリア」、西五反田「ゲンロンカフェ」、高円寺「パンディット」、大阪「討論Bar・シチズン」「アワーズルーム」「ロフトプラスワン・ウェスト」等、ライヴハウスやイヴェントスペースのように常時イヴェントが開催されている事を売りとしている飲食店もある。

 筆者が体験した面白い出来事も幾つか有る。1つは創価学会員が経営するラーメン店での出来事。店内外には公明党のポスターが張り巡らされ、新聞の棚には公明新聞と聖教新聞が置かれている。学会員と思しき客も多く、学会内部に関する議論が行なわれている事も多い。筆者は情報収集の為結構頻繁に訪れ、その時は必ず公明新聞を熟読している事から、店主がニコニコしながら「所属ブロックは何処?」と、筆者を完全に学会員と誤解し、学会内での所属を聞かれた事もある。そして別の日、TVで首相を務める安倍晋三が記者会見に応じていると、矢張り学会員と思しき店員が「安倍さんもうええわ!訳分からん!」と安部をあからさまに非難し、店主に宥められるという場面もあった。「自民の常勝・大勝は学会員の頑張りの御蔭」とずっと言われ続けてきており、故に自民党議員には「比例区は公明党へ」と連呼する者もいる訳たが、その屋台骨もいつの間にか崩れかけてきているという事なのだろうか。

 他の体験としては、有名なロックフェスと同じ名前をつけた店でカレーを食べていると、、作家の半藤一利が「護憲は国益」とTVで力説しているのを見て、店主が大声で「そりゃ平和憲法は守らにゃいかんじゃろ!」と叫ぶ光景を見た。店主はロックや音楽だけでなく、昔ながらのコーヒーハウスの如く政治談議も好きな様である。こんな雰囲気の店がまだ残っていたのかと思うと、少し嬉しくなった。

 商店街から少し外れた場所にある、共産党関係のポスターが壁一面にびっしり貼り巡らされて地方議員の後援会連絡所にもなっている御好み焼き屋では、「赤旗」「全国商工新聞」(民主商工会を組織する全国商工団体連合会の中央機関紙)等は置かれておらず、新聞は地方紙しか無かったが、筆者の「商店街をぶらつくのが大好き」という発言に店主が非常に注目してきて、街づくりや町おこし等について、食事が終わるまで話が大いに盛り上がった。

 一方、入口に日本会議(日本最大級の財界・宗教系右翼団体)の発行する「朝日新聞は購読しません!」と書かれたステッカーが貼られたラーメン屋があったが、店内は特に政治的雰囲気が強い訳でもなかった。但し、「この俺が全身全霊で創り上げた魂の一杯、お前ら心して食え!」など、手書き風フォントで書かれた自己啓発風ポエム、所謂「ラーメンポエム」の踊る店ではあった。ラーメンの味自体は中々良く、思想抜きで通い詰めたかったのだが、政治的議論を深める前に店は潰れてしまった。非常に残念である。

 更に、まだ入った事は無いが、店の入口に手書きで民主党や中国等に対するヘイトスピーチが手書きで延々書かれている焼き鳥屋が自宅近くにあるので、いつか是非潜入してみたい。

 他には、自衛隊の募集案内が掲示されている店も注目である。自衛隊は任期制隊員の場合は特に、最初から資格取得を目指して入隊し、資格取得後に転職する事が非常に多く、自衛隊自身もそれを売りとして隊員を募集している位である。取得対象となる資格には調理師もあり、調理師免許取得後に店を開き、隊員募集看板を設置している事もある。元自衛官の店主の中には、予備自衛官や即応予備自衛官(一定の訓練を受け、非常時のみ任務に就く非常勤自衛官。元自衛官や予備自衛官補入隊試験で選抜された者らにより構成)等として退役後も自衛隊と深く関わっている場合もあり、興味のある人は色んな話を聞けるだろう。

 そんな訳で、政治色・宗教色の強いポスターやビラ等が壁に貼ってあったり、看板が置いてあったりする店や、店名に政治色や宗教色を感じたら、左右のイデオロギーや信仰等の思想信条を問わず、是非どんどん入ってみてほしい。折角腹を満たすなら、同時に会話や時間、空間も大いに楽しみたい。但し、最初から決め付けや論破目的で店員や客に論争を吹っかけるのは、互いに飯や酒が不味くなるので程々に。

 尚、ピースボートのポスターが貼ってある店が政治的かどうかは余りアテにならない。本当に頼まれて貼っているだけで、店主はノンポリ・無思想という事も多々有る。その為、その店のスタッフに論争を吹っかけても、面食らわれたり不審がられたり、迷惑行為として警察を呼ばれたりするのがオチなので注意が必要。設立には辻元清美が関わり、弁護士の土井香苗らもツアーに参加したというが、参加費も非常に高額で儲けが莫大だけあって、見事な営業力である。時々、案内葉書を入れる場所に「ピースボートは北朝鮮やポルポト派らの手先!」と主張するビラが「このビラは政治的主張ではありません!」の注意書きと共に入っているが、現在は最早単なる長期パック旅行と化した企画と、それを無根拠に誹謗中傷するヘイトスピーチ、どっちが「政治的主張」の濃さが強いと言えるのやら。


◎政治的飲み屋その1・GELLONIMO

 2011年、ヴィジュアル系ロックバンド「GELLONIMO」(ジェロニモ)のヴォーカル、雅(みやび)が歌舞伎町規制強化反対などを訴えて新宿区議選に出馬し、落選した。同じく区議選の行なわれる2015年、「コミケットスペシャル6・OTAKUサミット」サークル参加のついでに歌舞伎町へ行く機会を作る事が出来た筆者は、早速其処へ飲みに行ってみる事にした。因みに筆者は、ヴィジュアル系バンドも大好物で、バンド好きな友人知人も幾らかいる、所謂「ギャ男」(バンギャル男)である。

 午前0時~9時という歌舞伎町特有の異様に遅い開店時間まで時間を潰す為、適当に夕食を取り、ゴールデン街で時間を潰せそうな店を探す。知人が紹介してくれた行きつけの店は残念ながら満席。文壇バーの類も入り込めそうな所は無い。「ひしょう」は…?何とか開いてる!当初は公安スパイと勘違いされ、非常に怪しまれながらも、素性を明かすと一転態度を軟化させ、ノンアルコールビール片手に楽しい時間を過ごす事が出来た。「ひしょう」で飲んだ詳しい話は、本書の別項で詳述している。

 日は廻って、午前1時過ぎ。眠らない街・歌舞伎町はこの時間でも非常に騒がしく、ネオンなどの明かりも煌びやかだ。客引きも多く、慣れない光景に面食らい、恐怖すら感じ逃げ回りながら目的地へ向かう。実は前日、ブログアカウントのメッセージ機能で「飲みに行きます」とメッセージを出し、「どうぞ」と返事を頂いていた。V系バンドの溜まり場には似つかわしくないダサい格好ながら、勇気を出して入店する。V系には程遠い、余りに似つかわしくない呑臭く小汚い姿のオッサンが入店してきた事に若干怪訝な表情をされながらも、店主でありバンドのヴォーカルである雅自身から直接接客を受ける事になる。緊張…。

 店の壁には一面に色んなバンドのステッカー。L’Arc-en-Ciel(ラルク・アン・シエル)のPVが流れる大きなモニターを横目に、注文を聞かれる。チャージは無く、ノンアルコールドリンクは500円からという非常に良心的な価格設定で、取り敢えずジャスミン茶を頂く事に。

 「音楽は好きなの?」と聞かれ、「はい、勿論。只、今回来た主な目的は少々違うネタで…。」と、恐る恐るながら早々にネタ晴らしをする。すると、「あぁ、やっぱ政治関係!君のペンネームを見てそんな感じだと思ったよ!いや、でももう今回は出馬しないから!」と苦笑しながら答えてくれた。

 雅は山口県出身。県内の進学校を経て早稲田大学第一文学部を卒業後、ヴィジュアル系ロックバンド「黒蜥蜴」「GELLONIMO」等のヴォーカルとして活動する傍ら、このバーを経営し、音楽業界関係者やミュージシャン志望者、バンドファンらの交流の場を提供してきた。一時期は3店舗同時に経営していたとの事だが、4年前の区議選出馬に伴い店を絞り、現在はこの1店のみである。深夜から早朝にかけての営業ということもあり、バンド関係者や音楽ファンが2次会・3次会の場として利用する事が多く、午前3~4時前後が最も盛り上がるらしい。メジャーなプロのミュージシャンではギタリストのPATA(X JAPAN)らが常連客で、ベーシストのTAIJI(元X)も生前よく訪れていたという。

 彼はDIR EN GREY(ディル・アン・グレイ)の所属事務所の社長と親しく、主に彼から経営や経済、政治について教わり学んできたという。元々は芸能人・タレントという経歴をひけらかして出馬する気は無く、あくまでも実業家・飲食店経営者として勝負したかったのだと語る。「それでも新宿は案外老人が多い地域。地盤(組織票)・看板(知名度)・カバン(資金)の無い完全無所属・無党派の企業経営者として勝負してたら、間違い無く埋没してしまう。それに、1人でも多くの若い人に選挙に行ってもらいたい。そう考えると、ミュージシャンの肩書きとV系のメイクを全面に使って勝負するしかなかった。」と、戦略的な苦労があった事を語ってくれた。

「本当は石原(慎太郎)さんにもそんなに反対じゃなかったんだけど、戦略として『V系ミュージシャンが石原に物申す』みたいになっちゃって。だけど、歌舞伎町の規制で新宿の街がどんどん活気を失ってて、これはどうにかしないとって当時から本気で思ってた。」

「若い人が多く見えて、実は新宿区議会も老人クラブ。会派で議員が1番多いのは共産党。そんな現状で、若い人の意見なんか絶対通る訳が無い。だから、石原さんや橋下(徹)さんみたいな強いリーダーシップのある若い人が議会に入ってかなくちゃ駄目だと思った。」

熱い思いも語りたい事も沢山あるのか、話はどんどんヒートアップする。

「うちの店にもこんな手紙が届いてるんだけど、年少(少年刑務所)を出たばっかりで、雇ってほしいから会いたいって内容の手紙なんだよね。うちもいきなり面識の無いこんな子が来られても雇う訳にはいかないけど、こんな子達が社会復帰出来る体制は作りたいと思ってる。そうだな…、『金八先生』って、見ててどう思ってた?」

いきなり話を振られて少々驚くが、「ああ、都知事選に出た三上満先生や、TVで有名な尾木直樹先生なんかがモデルでしたね。実際にあれだけ生徒に付きっ切りで見てやれる先生ってのは非常に難しいですけど、良いドラマとは思いますし、理想としてはああいう先生がいてくれると嬉しいですけど…。」と正直に答えると、

「そう、理想としては良いんだけど、現実には絶対無理。金八先生が普通の授業をやってるシーンなんて殆ど無いし、ちゃんと教えられるかどうかも分からない。何より、教育者として尊敬を受けるべき教員が全く尊敬される存在になってないのが本当にどうかしてると思う。だから、金八先生みたいな人は道徳専門の教員になってもらって、生徒の生活面の指導やサポートをする。そして教科担当の先生は、大学教授並みにに頭の良い全国のトップエリートを選りすぐって、教科教育に専念して指導に当たる。だって、山大(国立大学法人山口大学)如き出身の教員なんて、誰も尊敬出来ないっしょ?」

そうかなぁ…。山口大も国公立で、早稲田程ではないにしても、結構入るの難しいから十分尊敬されると思うんだが…。それに、金八先生みたいな付きっ切りの指導は絶対無理としても、安易な道徳教育の分離は現在政府与党が推し進めてる道徳の教科化、事実上の「修身」の復活っぽい感じがして危険な感じもするのだが…。ま、私大トップの早大卒で、石原や橋下らに傾倒してるのなら、こういう考えになるのも仕方無いか。

 彼も大分ボルテージが上がってる感じだったので、クールダウンを図るべく、PVの映ってるモニターに目をやる。相変わらずラルクのPVが流れ続けてる。「あ、そういえばPVなんですけど、知人にhydeさん大好きな人がいて、ラルクやVAMPS聴きまくってる人がいますよ。」と話題を変える。すると、「あ、実はラルクとは殆ど繋がりが無くってさぁ。若い世代でも密に交流してるのはディルくらいまでかなぁ。」そうなんだ。でも、筆者もディルは大好きだから、音楽的には話が合いそうだ。

 「音楽は何が好き?」と聞かれ、「ヴィジュアル系には一時期どっぷりハマってた時期があって、特に黒夢とLUNA SEAが今でも大好きですねぇ~。」というと、「ああ、黒夢か!俺が黒蜥蜴ってバンドやってた時は、『東京の黒蜥蜴と愛知の黒夢』っていって、よく対バン(対決方式の複数バンドによるコンサート)やってったんだよ。音楽的にはもう彼らの方が随分売れちゃったけど、先日20年振りにベースの人時君と出会ってねぇ。もう自分の事なんか覚えてないだろうなぁ、と思ってたのに、『雅さん!御久し振りです!』と声をかけてきてくれたのは嬉しかったなぁ。」とニコニコしながら語る。音楽について語る彼の笑顔は本当に楽しそうだ。「因みにGELLONIMOの曲は動画サイトで少し聞いたくらいで、余り詳しくは知らなくて…。」と謝ると、「まあ、それはいいよ。」と許してくれた。因みに自分が見た動画は、白塗りのド派手な化粧の雅が荒々しく吠える曲で、初めて聞いた時は非常に度肝を抜かれた。

 前回の選挙の事や、政治面での今後の活動予定を聞いてみると、

「前回の選挙については自分なりに頑張ったよ。本当に政治や選挙の『せ』の字も知らない20代・30代の若い人が、手探り状態で手伝ってくれた。当選には至らなかったけど、メディアでの紹介のされ方も相まって、20代・30代の若者や、前回初めて選挙に行った人は、全員俺に入れてくれてるだろうね。スマホ(スマートフォン、携帯電話)や自宅のパソコンで出来るネット投票が実現してれば、もっと票は伸びてただろうよ。だからネット投票は早く実現してほしいね。それと、俺の思ってる政策と似た主張をしてて、尚且つ俺よりずっと政治をよく知ってて勉強熱心な若い候補者(誰かは直接聞けなかったものの、話を聞いた感じでは32歳学習塾講師の鈴木亮介か?)もいて、彼も当選には至らなかったけど、互いに応援し合ってたよ。」

「あと、水商売は確かに楽しいけど、尊敬する孫正義社長(ソフトバンク)や俺の大学の同級生なんかを見てると、売り上げを社会に還元する活動を活発にやってる人も多くてね。俺も3年後には50歳になるから、その辺りには店を閉めて、新たな事業を起こして、その事業そのものと売り上げで社会貢献する活動にシフトしたいかな、と思ってる。バンド活動しながらでも店を3つ経営出来てたんだから、企業経営者としても自信はあるよ。」

と、非常に真面目な回答。演奏してる曲調の荒々しさに反して、ホント堅実だなぁ~。

 結局ジンジャーエールや茶類を計3杯飲み、2時間程話し込んで1500円。とても歌舞伎町とは思えない、極めて御手頃な値段で、政治の話も音楽の話も非常に楽しむ事が出来た。こんな楽しい店なら、今後もこの店が賑わい続ける事を願うばかりである。

 2015年から3年後に閉店を検討中という事は、2018年にはもうこの場で飲めなくなるという事か!飲みに行きたい人は是非急ぐべし!そして、筆者も閉店前にもう1度この楽しい空間へ飲みに行きたいものである。


◎政治的飲み屋その2・ひしょう

 2015年、「コミケットスペシャル6・OTAKUサミット」サークル参加の為に歌舞伎町で1泊する事となった。それならばと、新宿区議選に出馬したヴィジュアル系ロックバンド「GELLONIMO(ジェロニモ)」ヴォーカル、雅(みやび)の経営するロックバーー「GELLONIMO」に行こうと決めた訳だが、如何せん開店時間が午前0時からと極めて遅い。店の近辺居住者か宿泊客以外絶対入れない時間設定である。只今午後10時。2時間程時間を潰す必要がある。新宿は日本最大、世界でも有数の歓楽街だから、他に行く店が無くて困るという事は有り得ない。強いて言えば、選択肢が有り過ぎて選べずに困るという感じか。さて、どうするか…。

 四谷で僧侶がバーテンを務めるバー「坊主バー」には1度行ってみたいが、移動時間を考えるとちと遠い。早稲田の交流バー「あかね」も少し距離があるし、何度も行ってるので今回に限ってはやや面白みに欠ける。高円寺の「なんとかBAR」や池袋の「りべるたん」等は遠過ぎる。

 歌舞伎町にあった、カトリック司祭がバーテンを務めるバー「エポペ」には1度だけ行った事があり、非常に良い雰囲気の店だったが、2011年に惜しまれつつ閉店してしまった。日本最大のゲイタウン・新宿2丁目も近いのでセクシャルマイノリティ関係の店も考えたが、東郷健(雑民党代表)は既に亡くなったため「BAR東郷健」は既に無く、東郷が最初に開店した「サタデイ」も人の手に渡った挙句、潰れてしまった為、どうにも食指が動きそうな店が思い当たらない。

 取り敢えず、宿に近いカレー屋で晩飯を食った後、次々と襲い掛かってくる恐ろしいポン引き達にビビりまくり、必死に逃げ回りながら当て所無くゴールデン街を巡る。知人に連れられて行った事のあるバーは残念ながら満席で、盛り上がってる雰囲気なので待っても席が空きそうに無い。文壇バーの類も探してみたが、矢張り何処も満席で空きそうに無い。さて困った…。いや、実のところ、本当はそんなに困ってなくて、真っ先に行きたい店が既に1つあるのであった。「ひしょう」だ。

 「ひしょう」はお茶の水女子大学で全共闘(全学共闘会議)系の学生運動家となった長谷百合子が、在学中に開店した伝説の店である。長谷はバー経営中に大学院を中退し、「お龍ママ」として様々な社会運動家の交流の場を提供し、尚且つ評論家としても活動してきた。それらの経験を買われ、1990年2月には、日本社会党から旧東京11区(八王子市、西多摩郡など多摩地区)から出馬し当選。山花貞夫(当時党副書記長、後に党委員長、政治改革担当相等を歴任)とのダブル出馬で、タレントとしての知名度や佐高信らの推薦、更に消費税導入とその世論の反発に伴う前年参院選の社会党の大勝利による政権交代の機運の高まり、マドンナ議員ブームなどに乗ってのダブル当選だった。

 長谷は1991年11月、ベレー帽を被ったまま国会の議場に入り、衆議院規則違反を問われる。長谷は「イギリスのダイアナ妃(当時のチャールズ皇太子夫人)が日本の国会で挨拶をした時は、帽子着用でも問題とされなかったではないか」と反論し、一部女性議員も超党派で「古臭い男性議員が新人女性議員を苛めている」「タブーに挑戦している」と長谷を擁護したが、社会党執行部はスタンドプレーと捉えて冷ややかな態度を取り、世論も規則改正の為に大きく動く事は無く、長谷は名実共に脱帽を余儀なくされる。この顛末に党執行部への反発を強めた長谷は、1993年7月の落選後、離党し新進党に移籍する。しかし小沢一郎との対立から1996年10月の衆院選には出馬せず、そのまま事実上の政界引退となった。

 その後、長谷は「ひしょう」経営と共にお茶の水女子大大学院に復学、右翼運動の研究に従事し、博士後期課程進学後は右翼活動研究家として新右翼団体「一水会」の講師などを務めている。
 知人から「店内で延々と怒鳴られ、説教された。非常に怖い場所。危険だから絶対近付くな!」と言われていたので、非常に興味がある一方、足が竦む。然しもう、今の自分にとっての選択肢は唯一此処以外有り得ない。時間は午後11時頃。案内図で店の場所を調べ、入口の前に立つ。見るからに重そうな扉のノブに震える手を掛けると、…開いてる!?もしや本当に入れるのか!?

 震える手で扉を開け、膝が笑う脚で狭い階段をヨロヨロと登り、ガチガチと歯が鳴る口で、下手糞なヨーデルみたいな上擦った声で「こっ、ここっ、こここっ、今晩はぁ~っ!」と一言叫んで接客を待つ。店内には年配の女性が2人。どちらも店のスタッフのようだ。他の客は1人もいない。

 女性の1人が怪訝そうな顔で、ギロリと筆者を睨み付けながら、「1人?じゃ、適当に座って。ま、うちはこんな感じの店だけど。」と突き放すように言い、座ったテーブルへぞんざいにメニューが置かれる。ノンアルコールビールを頼むと、350cc缶がそのまま渡される。1本500円。値段の割りにやってる事は家飲みと変わらん…。

 狭苦しい店の壁やテーブルには、古い新聞・雑誌の切抜きや、長谷ら活動家の活動風景の写真がビッシリと貼り巡らされている。壁一面の本棚には、社会思想・運動関係の本が大量に刺さっている。取り敢えず、佐々木美智子・岩本茂之「新宿、わたしの解放区」(寿郎社)という新しそうな本に手をつける。社会運動とバー経営をしていたという、長谷によく似た生き方の写真家、佐々木美智子に関するルポルタージュだが、中々面白い。とはいえ余りに心細く、「せめて誰か来ないかなぁ…。」と祈りつつページを捲る。しかし相変わらずスタッフの目は睨むようで、冷たい視線が全身を貫く。ゴールデン街としては比較的良心的な価格設定であるにもかかわらず、筆者の心境たるや出入口に鍵を掛けられたぼったくりバーで、何人もの筋物の黒服に全身を押さえつけられ、今まさに首を切り落とされ、更に心臓を刺し貫かれてえぐり出されるような気分である。知人の「極めて恐ろしい、絶対近付いてはならぬ場所」という話は矢張り本当だったのか…?

 余りにもいたたまれなくなり、ノンアルビールをグイッと飲み干して、緊張でカラカラに干乾びていた口と喉に喋れる程度の湿り気を確保し、掠れながらも何とか声を振り絞って、「すっ、すすっ、済みませんっ!自分っ、此の店が長谷百合子さんゆかりの店だと伺ったたもんでっ、それでっ、どんな店か知りたくてっ、他県から参ってみたんですけどっ…っ!」と、混乱しまくった頭と引きつった声で時々詰まりながら、彼女らに対して好意的に思われたいと願っている事をアピールしているのだというのが相手にも分かりそうな情報を、頭に思い浮かんだ先から兎に角片っ端から只管喋り捲る。兎にも角にも彼女らに対し、自分はこの店に敵意が無いどころか慕って来ているのだという事を命懸けで必死にアピールし続ける。

 すると、一気に態度が豹変。「なぁんだ~!それならそうと最初から言ってくれれば良かったのに!見た事無い顔だったし、余りに店に似つかわしくない雰囲気だったから、私ら、あんたを公安スパイだと思ってたんだよ!うちはこんな店だからさぁ、怪しい奴に対しては警戒心が強くてねぇ~。」

 なっ、ななっ、何だとぉ~っ!?こちとら公安スパイに狙われた事は何度もあるが、スパイになった事なんて生まれてこのかた1度も無ぇぞっ!幾ら店がその手の筋物の巣窟の店だからって、どんだけ失礼無礼千万なんだよっ!!ふざけんじゃねぇやっ!!!一気に緊張の糸が切れ、全身がグニャグニャになりペシャンコに潰れる。

 とはいえ、素性を明かすと一転彼女らの態度は軟化し、非常に温和になった。近年は長谷も体調を崩し気味であり、店に立つのは非常に困難な状況にあるという。店は長谷の知人である、前述の佐々木美智子を含む2人で切り盛りしているとの事である。長谷の近況や店の2人の事など、色々聞く事が出来た。そして翌日同人誌即売会に参加する事を話し、同人誌を寄贈すると、「これは店の客にも読ませたいわ!」と非常に興味を持ってくれて非常に嬉しかった。そして、佐々木からは名詞を頂き、午前1時頃に退店した。序盤の全身をペシャンコに押し潰されてバラバラに切り刻まれそうなそうな極めて重苦しい雰囲気と、終盤の極めて気さくで明るい雰囲気のギャップに面食らい、腰が砕けそうにフラフラになりながら次の店へ向かった。非常に複雑な心境である。

 取り敢えず、この店に入ったら先ず最初に間髪入れず、「長谷さんの話に興味がありますっ!!」と、有らん限りの大声で力一杯叫ぼうっ!!!


◎政治的飲み屋その3・あかね

 地下鉄東西線早稲田駅周辺、西早稲田最大のディープスポットといっても過言でもないのが、早稲田大学文学部向かいにある飲み屋「あかね」である。

 1990年代後半、「だめ連」という運動にスポットが当たった。フリーターや無職(引きこもりやニートといった概念は、まだ当時の日本では確立していなかった)、障碍者など、「だめ」とされる人達が、拗らせて泥沼にはまらないように交流を通じて回復を目指そうという運動である。「あかね」の運営には「だめ連」の中心的活動家であるペペ長谷川(メッセンジャー、早稲田大学出身)なども関わっており、一時は「だめ連」運動の拠点にもなった。その後「だめ連」の活動自体は衰退していくが、「あかね」は細々と残っている。毎日交代する「1日店長」や運営・接客スタッフは、ほぼヴォランティアである。

 「だめ連」がややアナーキズム的指向だった事もあってか、「あかね」に集う客やスタッフも相当アナーキーである(かくいう筆者もニート・引きこもり・浪人・留年・中退・低学歴と色々やらかしまくってる挙句、泡沫候補観察家な訳だが)。そんな彼らが交流を求め、店は毎日大いに賑わう。早大の真向かいにあるにもかかわらず、現役の学生はほぼ全くと言って良い程寄り付かないという。存在すら知られてるかどうかも大いに怪しい。

 料理は素人料理か缶詰で、飲み物も缶をそのまま出すかパックを開けてコップに注ぐだけ(しかも値段はそこらのコンビニで買うより遥かに高い)なので、コストパフォーマンスは非常に悪い。しかし、毎日誰か必ず色んな魅力を持った面白い人々が集い、壁には一面にビッシリと各種イヴェント・集会案内ビラが貼り巡らされ、同様のビラがテーブルに置かれまくっているなど、他の店には絶対に無い魅力を醸し出している。

 開店は通常夜からだが、昼に空き時間を使って学習会などが行われる事もある。夜もその日の1日店長や客の主催で企画が行われる事も多い。

 1度、近所の鶴巻町に本部を構える大手新左翼党派・革マル派(日本革命的共産主義者同盟・革命的マルクス主義派)の活動家が入ってきて論争となったところに居合わせた事があるが、店員と客が一致団結して革マル派活動家を取り囲んで論破し、追い返してしまった。凄まじい光景を目の当たりにしたものである。

 こうした魅力が決して忘れられず、今夜もこの学生街に隠れたディープスポットに足を踏み入れるのである。入口からして入店は相当勇気がいる店構えだが、是非1度勇気を出して足を踏み入れてみてほしい。その日から直ちに、「あかね」の魅力にどっぷりハマる事間違い無しである。