……僕の文芸部の同じ学年に糸井さんっていう女の子がいるんだ。この子は凄く可愛い子なんだけど極度の人見知りでね、同じく文芸部の1年生の妹くらいしか目をみてまともに話すこともできない。だから、きっと本物の恋愛だってしたことはなかったんだろうね。いつも本の中の白馬の王子に恋をする、そんな典型的な文学少女だった。
そんなある日、そんな内気だけど可愛らしい彼女に恋をして、告白をした同じクラスの男子生徒がいた。彼女はビックリしてしまい、何も言えずにその場から逃げ出してしまった。
「どうしよう……美夏、お姉ちゃん……初めて男の人から『好きだ』って言われちゃった」
「本当に? やったじゃないお姉ちゃん!」
 姉より社交的な妹は、内気な姉に起きた事件を我が事のように喜んだ。姉にめぐってきた春を絶対に掴んで欲しいと心から思った。 
「でも私……怖い」
「お姉ちゃんはその人の事は嫌いなの?」
「……わからない」
 確かに今まで人の目を見ることなく過ごして来た彼女にとっては、当然その男子生徒とも話なんてしたことはなかった。でも、顔はどちらかといえばカッコイイし、優しそうな物腰で友達も多い。クラスの女子達が何やらランクづけしているらしい男子生徒の中でもトップに位置していることは分かっていた。しかも様々な小説から恋愛についての興味は人一倍膨れ上がっていた。
「大丈夫だよ、お姉ちゃんは可愛いんだから自信を持って! これを機会にもっと社交的にならなくっちゃ」
 妹に励まされて糸井さんは勇気を出して返事を出すことにした。彼女は手紙で想いを書き綴った。彼女にとって直に返事を言うなんてことは無理な相談だった。手紙で返事を書いた事だって、今まで生きて来て一番勇気を振り絞った出来事だったんじゃないだろうか?