学園怪談

「うん。いいね! あれ? こんなボタンあったっけ?」
 自動販売機の前に立った私達の目に、『おたのしみ』というボタンが飛び込んできた。
「あれ本当だ。昨日まではなかったよねコレ」
 他の商品は、全て缶の表示があるから買う商品が分かるが、この商品は文字通りお楽しみなので、缶が大きなサイズであるのが分かる他は何もわからない。
「何にするの久美ちゃんは?」
「私はこの『お楽しみ』にしてみようかな~、値段も一緒だし、やっぱ質より量よね」
 たしかに、この暑さの中でなら普段は飲みきれないサイズも一気飲みできるような気がした。
「じゃあ、アタシも」
 ……ここでやめておけば、あんなことにならずにすんだのに。おっとっと、もう過ぎたことだもんね、で、続きなんだけど。
 先に購入した久美ちゃんには緑茶の500ミリ缶が出てきた。
「げ、またお茶か~。もう飲み飽きたよ~」
 アタシは笑いながらボタンを押した。
 ゴトリ。
「ん、なんだコレ?」
 アタシが手にとったのは真っ赤な缶ジュースだ。しかしおかしいことに商品名はおろか、製造元も成分表も何も書かれていない。
「あ、何か変な物を引いたな~」
 アタシはちょっと気味が悪かった。『おたのしみ』という言葉につられて買ってしまったが、その缶を見ていると怖くなってしまい飲む気分には全くなれなかった。
「いいな~、ちょっと味見させてよ」
「え~、やめた方がいいんじゃない、こんな得体のしれないもの」
 アタシとは反対に、久美ちゃんは興味津々で、缶を奪い取るとプルタブを一気に引き抜き躊躇せずに口をつけた。
「く~っ、くあ~!」
「だ、大丈夫? 久美ちゃん!」
「うまい!」
 ずっこけそうになった。人の心配も知らないで。
「いや、本当に美味しいって。たしかほら、ガラナとかってあるでしょ。それに近いような甘苦い感じだけど炭酸とマッチしてて、本当に美味しいんだってば」
「げ、炭酸か~、アタシは炭酸って苦手なんだよね~」
「じゃあ、私のと取替えっこしてあげる」
 願ってもないことだったので、アタシは交換してもらい、飲みなれた緑茶のほろ苦い味にひと心地ついた。