学園怪談

「……な……ん……の……よ……う……だ」
 能勢さんは移動していく10円玉の文字を続けて読んでいく。
 10円玉は文字の上で一瞬停止するので、間違えて読むこともなかった。
「よし、じゃあ。何か聞きたいことある人いる?」
「はいはい、オレオレ!」
 元気よく徹さんが手を上げ、食い入るように質問をしてきた。
「こっくりさんこっくりさん、担任の赤塚先生はヅラですか?」
 全員がずっこける中、10円玉は静かに移動して『はい』の方をさして戻った。
「やっぱり! 胡散臭い髪型だと思ってたんだよ俺」
 レベルの低い質問に辟易していると、今度は斎条さんが質問した。
「こっくりさんこっくりさん、私は何歳くらいで結婚できるでしょうか?」
 目を輝かせながら期待で胸を押さえる斎条さん。やはり自分の結婚年齢は誰でも気になるところだ。
「……3……1」
「へえ~、結構遅いんだ~。私は若いママがいいけど、まあこんなものなのかな」
「さあ、キミも何か訊いてご覧よ」
「えーと、どうしようかな。こっくりさん、こっくりさん、私は……長生きできますか?」
 質問を考えていなかった私は咄嗟に質問した。
一瞬の沈黙があったが、こっくりさんはゆっくりと動き出した。
「……こ……た……え……ら……れ……な……い」
 質問に対して明確な答えにならなかったのは初めてだった。
「答えられない? なんででしょう」
「さあ、それは僕にもわからないな」
「こっくりさんこっくりさん、私は長生きできるのでしょうか?」
 もう一度だけ、今度は質問を少し変えながら訊いてみた。
「……わ……か……ら……な……い」
 まただ。質問に対して曖昧な返答が返ってきた。
「どうなっているんでしょうか?」
「さあ……未来のことは流動的だからね。はっきりと分からない事だってあるのかもしれないよ」
 その時、グルグルと10円玉が勢いよく回りだした。
「な、なんだ? 一体どうしたんだ? 勝手に動き出したぞ」
 徹さんの言葉を無視するように10円玉は先程とは比べられない程の勢いで動いた。
「……い……ま……し……ね」