……夕食も終わり、入浴や帰り支度などを済ませて就寝時間となった。
「いいか、よく聞けよ」
 先輩は部屋の男衆全員を集めると、オデコのサングラスを指して言った。
「このサングラスはな、なんと……霊が見えるんだよ」
 その先輩の言葉に、5人いた他の男子のうち、3人が布団へと入って行った。
「アホらしい。富士見、俺はもう寝るぜ」
「おう、トランプでもしねえ?」
「いいねえ。やろうぜ」
 3人は興味も全くないようで、各自の時間に没頭し始めた。
「か~、これだから夢を無くした奴はつまらねえ。さっさと大人の階段を登りなってーの」
 先輩は3人に毒づきつつも、まだその場に残っている僕と、同じく1年生の秋山君に笑顔を向けた。
「お前達は偉い。いいぜ、お前達だけにこのサングラスの謎を教えてやる」
 先輩はサングラスを僕達にかけるように促した。
「うわあ」
 最初にかけた秋山君が小さな歓声を上げた。
「な、なに? 何が見えるの秋山君!」
 僅かな時間の後、僕にサングラスが渡された。期待を抑えつつサングラスをかけてみる。
 ……そこには少し光が弱くなった部屋の内部が映った。
「別に何も……」
 その時だった。
 ……部屋の内部をフヨフヨと浮遊する煙のようなものが見えたのだ。
「な、何だろこれ?」
 僕はサングラスの中に見えるその浮遊体をじっくりと観察した。
 すると、それは、しばらく部屋の中をぎこちなく浮遊した後、静かに窓の外へと消えていった。