第44話 『説明書』 語り手 石田淳

長い話も終わり、気を取り直して淳さんの話に戻ることにした。
「さて、もうだいぶ夜も更けてきたね」
 淳さんの言葉に時計を見てみると……3時だ。
「いわゆる丑三つ時ってやつだな」
と、大ちゃんさん。
「今回はね、この丑三つ時とね、これに関するお話だよ」
 そう言うと、淳さんは自分のメガネのレンズをコツコツと指で突ついた。
「メガネ?」

 ……。
 僕が1年生だった時、先輩に富士見先輩っていう男の先輩がいた。僕の所属する文芸部の当時の部長でね、文化部には似合わないマッチョマンで、男の僕が見てもカッコイイと思える人だったんだ。
 去年の夏、文芸部でも合宿という似合わない事をやったんだ。場所は軽井沢の避暑地でね、夏はスキー場のペンションが学生向けに安い料金で営業してるから、僕達が泊まったのもそんな宿の一つだった。
 ……合宿も終わりに近づき、最終日の夜に宿のお土産屋で買い物をしていた時のこと。
「おう石田。お前は何を買うんだ?」
 先輩が僕に話しかけてきた。  
 ……まあ、文芸部なんて人数も少ないからね、先輩後輩関係なくみんな仲がいいから普通のことなんだけど。
「僕はこのミルクケーキです。先輩は?」
 僕の問いかけに、富士見先輩は頭の上に乗っているサングラスを指差した。
「サングラスですか? 他には買わないんですか?」
「いや、もう親とかへの分は買ったから、これは自分の分なんだ……それでな、実はな、このサングラスは普通のサングラスとはちいとばかし違うんだとさ」
 そう言って先輩はサングラスをかけてニヤリと笑った。
「普通と違う?」
 僕の訝しげな態度を見て、先輩は耳打ちした。
「今夜教えてやるよ」
 そう言うと、先輩はスキップしながら楽しげに出て行った。
 僕は先輩の言ってた事、そして例のサングラスから何か奇妙な感じを受けた気がして、少しばかり期待しながら夜を待った。