学園怪談

「腹……痛、食あたり……これだ!」
 雅兄ちゃんは小さな女の子の従兄弟に水を持って来させると、薬の箱を開封し始めた。
「本当に飲むの? この薬もかなり古そうだよ? やっぱり止めた方がいいんじゃないの?」
「大丈夫だって、これってまだ未開封だったろ? それに薬なんて期限が切れたからっていっても効き目が薄くなったりするだけで体に害はないんだから」
 ゴクリ……ゴクリ。
私の止める言葉も聞かず、雅兄ちゃんは薬を飲み下した。
「ふう~、後はちょっと横になるとするか……いててて、お前達、これ片付けておいてくれ」
 雅兄ちゃんは、そのまま座布団を枕代わりに寝転がってしまった。
 私はこの時、何やら胸騒ぎがしましたが、この後、大人たちが帰ってくる頃には雅兄ちゃんの腹痛はケロッと消えていたので、胸騒ぎの事は後になるまですっかり忘れていました。
 ……。
 雅兄ちゃんに異変が起き始めたのに気がついたのは、夏休みも終わってある日の下校途中でした。
「お~い弘子」
「あ、雅兄ちゃん」
 ランドセルをしょった私は、新座学園の制服に身を包む雅兄ちゃんに道端で会いました。家もそんなに離れていないから今までにもたまにこういうことがありましたが、夏休み明け最初に見る雅兄ちゃんは、田舎で見た時と少し違って見えました。
「どうした? 俺の顔に何かついてるか?」
「う、ううん何も。ただ、ちょっと痩せちゃった?」
 ……ちょっとじゃなかった。雅兄ちゃんの顔は酷くやつれていた。肌がカサカサになってしまっており、まるで病人だ。それに肌の色がどことなく青白い。スポーツをやっていた健康的な雅兄ちゃんとは思えない変貌だった。
「あ、スマン。ちょっといいか」
 雅兄ちゃんは私に断りをいれるとカバンからジュースを取り出すと一気に飲んだ。
 ……すると! みるみるうちに肌の色も、やつれた表情も回復した。まるで綿が水を吸って膨らむかのように、雅兄ちゃんの顔は普段の顔に近い姿に戻った。
「ビックリしたろ? なんかさ、体が水分とかを早く吸収しちゃうみたいでさ、適度にこうやって水分とか摂らないと干からびちゃいそうになるんだよ」
 確かにビックリしたが、この異常な事態をすんなりと受け止めている雅兄ちゃんが怖かった。