学園怪談

『でも信じられませんよ。そんな生け贄が必要だなんて』
 遊佐の父親らしき人物が、札束を数えながら尋ねる。
『ええ、でも本当なんです。この新座学園は創立以来、悪霊みたいなものが憑いておりまして。5年に一度、誰か生徒を生け贄に差し出さなければ学園全体に不幸が訪れるんです。過去に一度だけ生け贄を出さなかった時には、教師、生徒が次々と変死する事件が起きました。昔は時代が時代だったので何とかもみ消せましたが、今、この少子化の時代にそんな事件が起きたら学園は終わりなんです。それで生け贄にする生徒をあらかじめ調査して入学させようとしていたのに……本当に申し訳ない。』
 学園長は深々と頭を下げた。
『ああ……まあ、そうですか。』
『今は2000万しかありませんが、健二君には特別な死亡保険もかけてありますから、後でもう3000万ほどご用意できると思います。それで一つ、どうかよろしくお願いします』
『あ、は、はい。こちらこそ……』

 ……。
「その後、ホームページも、遊佐の姿も消えた。転校したっていう話だけどね……あのバカ!」
 大ちゃんさんは手近にあったイスを蹴り飛ばした。
「ひい!」
 徹さんが情けない悲鳴を上げた。
「ああ、ゴメン。ちょっと思い出しちゃって」
「あの……大ちゃんさんは、その……遊佐っていう人に後で何か言ったんですか?」
 私は少し気持ちの高ぶっている大ちゃんさんを刺激しないように、努めて静かに尋ねた。
「……ああ、アイツが消える前に会ったよ。そんで聞いたんだよ『おまえの命はたったの5000万ぽっちなのか?』ってさ。そうしたら、あのバカ『でも、学園のみんなの為に死ぬんでしょ。僕が選ばれたんだよね。これってよく考えると必要とされてるってことじゃない? そうでしょ? そうだよね?』って嬉しそうに言いやがったから、おもいっきりぶっ飛ばしてやったよ」
 まだ興奮の覚めやらない大ちゃんさんを能勢さんが宥めていた。
 この学園にそんな真相が本当にあるのなら大問題だ。
……でも、5年に一度の生け贄か……。遊佐という学生が、もし本当に生け贄になったのなら、まだ4年間は大丈夫のはずだ。私は自分が新座学園の入試で、ボーダーすれすれで合格していたことを思い出していた……。