学園怪談

 ……。
「待った! 今の映像もう一度撒き戻して!」
 紫乃さんが慌てたように能勢さんを急かした。
「ど、ど、どうしたの?」
「いいから、早く!」
 能勢さんが撒き戻しをかける。
「ここ! 止めて」
 一時停止にされた映像は、ハスキーボイスの女性が立ち上がる瞬間だ。
「ここ見て、このテレビの横の影!」
 紫乃さんの指差す先には……あの時のピエロ人形がいた! はっきりとは見えないが、胸元が赤いことが見て取れる。
「もしかして……智子さんとかいう人の血か?」
 ピエロは首をかしげるようにして、ショートカットの女性の方を向いていた。普通に作られた人形ならあんなに首の角度が曲がっているのはおかしいので、どう考えても人形が自分で首をかしげているとしか思えない。
 私達の予想と胸騒ぎは次の映像で解明された。
 ……。
 うす暗い部屋の中で、タオルのような物で口を塞がれている女性。先程のショートカットの女性だ。そして、その脇でキラリと光るカミソリを持ってユラユラと揺れる人形……あのピエロだ。ビデオの映像は、間近ではっきりとショートカットの女性が恐怖に怯える姿を映し出していた。
「うぐう! ううんんん! うむううう!」
 涙ながらに叫ぼうとする女性だったが、その懸命な努力も虚しく、ピエロは無表情のまま、カミソリを女性の首に打ち下ろした。
 ザクッ、ザクッ、ザクッ!
「うぐう、うぶぶぶうううう!」
 女性の首元から鮮血が迸り、悲鳴を上げられない女性の顔が歪む。
 ザクッ、ザクッ、ザクザクザク!
 二度、三度、四度……それでもピエロ人形のカミソリは止まらなかった。まるで狂ってしまったかのように乱暴に、激しく、何度も何度もカミソリが打ち込まれる。
 ピエロは無言なのに、まるで高笑いが聞こえてくるかのようだった。
 やがて女性は動かなくなり、血の海の中、上下に首を動かし、笑い続けるピエロの後ろ姿が映し出され、映像が途切れた。